第154話 知性と食欲は別物です

「朕から見ればその方の料理魔法と工作魔法とは同じものにしか見えぬのだけどな」

 典明が妙な事を言う。


「料理魔法と言っても原料を切ったり熱加えたり変成したりしているだけだけどな」

「工作魔法だって同じだと思うぞよ」

 典明はアジをバリバリ骨ごとかじりながらそんな事を言う。


「工作魔法も実際はちまちました魔法の組み合わせに過ぎん。それを自動でやっているように見えるのはその加工なり工作の知識があるからだ。何をどう加工してどう組み立ててという。

 材料の知識とか性質とか加工方法とかの事前知識。それがあるから無意識に近い処で手順を組み立てて実行できる。


 そういう意味では貴様の料理魔法の方が吾輩から見ると不可思議だな。工程とかセオリーとかを知らぬが故なのだろうが。米と水とが一瞬でご飯になるというのは魔法にしか見えん。まあ魔法なんだけどさ」


 えーと、つまりは。

「なら僕が工作の知識をもっと深めれば工作魔法も使えるようになるという事か」

「というか、魔法というものは本来はきっと○○魔法というような区分は無いものだと思うぞ」


 典明はそう言うと立ち上がり、キッチンの方へ。

 米一カップを丼で研いで水を入れて持ってくる。

 つまりはおかわり宜しくという事だ。

 はいはい。

 変成魔法を使って、ついでにちょっと多すぎた水分は熱で蒸発させておく。


「ありがたや。白いおまんまがすぐ食える」

 パック御飯扱いだがまあいいか。

 アレよりコスト的には安いしさ。


「例えば美雨先輩の本来の能力は身体の状態分析だ。治癒魔法も使えるし心理魔法もある程度使えるけれど。

 でも美雨先輩の魔法の話を聞いて思ったのだ。これは拙者の工作系検定魔法と全く同じ魔法では無いだろうかと。


 おそらく魔法そのものは全く同じなのだ。でも片方は生物の知識に長けていて片方は機械類の知識に長けている。

 だから脳が解析した結果、片方は生物用の魔法となり片方は工作系の魔法になる。

そうやって知識と動作を分類していくと、やがては魔法というものは全て同じものであり、受け取る側の違いだけという事になるのでは無いかと思うのだ。


 無論出力するエネルギー準位とかが違うのは知っている。

 それ故に杖や魔法補助具が各系統毎に別れていたりするのも知っている。

 でもその違いは、思われている程大したものじゃ無いと私は思うのだ。

 むしろ受け取る側の経験や知識の差こそが違いを作っているのでないだろうかと」


「魔力大統一理論だな」

 そういう理論は昔からあった。

 証明はされていない。

 魔法の科学的研究なんてまだまだ始まったばかりなのだ。

 だからそこまでたどり着いていないとも言える。

 まあ魔術史の授業の受け売りだけれども。


「ああ。証明するには遠い話だけれどな。

 でも修先輩も工作魔法を治療に使えるし、拙者も工作魔法を心理操作に使える。

 美雨先輩が知識は別として機械の回路を読めるのは確認して貰ったしな」


「何か色々実験しているんだな」

「美雨先輩と拙者の意見が一致したからな。それが同じかどうかを実験的に試してみるのも有用な経験だって」


 典明や美雨先輩のこういう面、僕や愛希先輩にはついていけない。

 学術的というか知識偏重的というか。

 まあそれはともかく。


「つまりある魔法を使いたければ、その方面の知識を身につければいいと」

「きっと知識だけで無く、思いとかでもいいのだと思うけれどな。貴殿の魔法の場合は理論で攻めた方がきっと効果が高いと思うのだ」


 なるほど典明、いい事を言う。

 ただの大食いではない。

 でも学食で食べて、更にここで2合は食べ過ぎだ。

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