第152話 少し落ち込む作業中

 愛希先輩も青葉も決して無能ではない。

 無能組と冗談で言っているけれども。


 愛希先輩はモノセロスを使い始めてから一気に使用可能魔法を増やした。

 今では普通の練習用杖を使っても火、氷、風の従来型魔法の他、光や異空間魔法まである程度使えるようになっている。


 青葉は本来は炎の魔法使いだった筈なのだが、夏休み終了までに闇魔法をかなりマスターした。

 僕には闇魔法というものがよくわからないのだが、青葉によれば普通の魔法全体と同じ位広い概念を持った魔法の総称らしい。

 つまり普通の火、風、水魔法と同じように闇の火、風、水魔法もあるそうだ。


 そしてエイダ先輩は闇系でも疑似生物使役魔法という通常の魔法には無い魔法を使うらしい。

 青葉はそれを練習していて、かなり使いこなしはじめているとの事。


 一方の僕はというと……


 一応USBのデータを元にモノセロス改という杖を作って色々やってみた。

 モノセロスのアンテナ部分を更に強化した杖で出力は2割増し。

 それでも僕が出来るのはせいぜい熱変換と物質変性くらい。

 急いで御飯を炊くとき等に大変便利な魔法なのだが調理以外に使い道が無い。

 効果はせいぜいトドを増やす程度のものだ。


 例えばこの魔法を使って作った自作魚肉ソーセージによるアメリカンドッグ。

 魚肉ソーセージと言うよりかまぼこに近かったが確かに笑える程に美味しかった。

 調子に乗って量産して保存用として冷凍庫に保存した。

 しかし翌日工房へ出かけて帰ってみると見事に全滅。

 犯人5名はトド化していたのですぐに判明、罰として昼飯抜きにした。

 僕の魔法なんてそんなものだ。


 刀の制作等もやっているが、これも詩織先輩と香緒里先輩の先行研究のおかげ。

 僕1人ではとても制作とか開発できるような代物では無い。


「お、朗人、何か表情が暗いな」

 愛希先輩に感づかれた。


「いや何でもないです。ちょっと考え事を」

「まあ答を急ぎすぎるなよ。学校はまだ4年以上あるし大学だってあるからさ」

 あ、結構見抜かれているかも。


「そう言えば愛希先輩、異空間を使った移動、どれくらい出来るようになりました」

「うーん、攻撃魔法科用の杖だとせいぜい5メートル程度だな。モノセロス使っても北之島まで」


「でも私より上ですね。私はヘリテージ使ってやっと学校と保養所を行き来出来る程度です」


「美南先輩は何とか千葉県の先っぽまでたどり着けたって言っていたな。気を抜くとぎりぎり届かず海に落ちるらしいけれど。エイダはどうだっけ」


「まだ島内が限度です」

 本人から回答が来た。


 話に出てきた4人は東京へ買い物に行きたいという野望のもと、異空間を使った長距離移動魔法を訓練している。

 元々は世田谷美南先輩が応用闇魔法として異空間移動の原理を編み出したのがきっかけだ。

 そこで闇魔法系3人と何故か愛希先輩が反応。

 試行錯誤してそれぞれ移動魔法を編み出した。

 今はそれぞれ距離を伸ばす訓練中らしい。


 それぞれ皆凄いよな。

 典明は典明で杖さえ使えば工作魔法も検定魔法も自在に使えるし。

 それに典明は成績もまともじゃ無い。

 まあ学生会全体がそもそも皆優秀だしな。


 それに比べると。

 うーん、僕、平凡。

 僕はおとなしく飯スタントで我慢しようという事だろうか。

 使用魔法まで含めてそれ系の技能ばかり上昇しているような気がするけれど。

 魔法工学より早く魔法料理学を極めそうな勢いだ。


「今年は処理が早いですね。そろそろ終わりです」

「人数がいますからね」

 美雨、沙知組がまもなく終わりを宣言。


「こっちももうすぐですわ」

「あと2枚です」

 理奈・エイダ組もまもなくだ。


「よし、これらの書類が片付いたら終わりにするですよ」

 いつの間にか帰って来ていた詩織先輩がそう宣言する。

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