第150話 いつか未来で笑い合おう
僕が色々聞ける相手というと、やっぱり愛希先輩だ。
あの後、朝にはもう詩織先輩はいつも通りだった。
工房で刀の試作品を作っている時もいつもと同じだった。
試作品の出来は上々で、市販用の刀も作りはじめたところだ。
そして今は昼食後、愛希先輩との魔法の訓練の時間。
今日は色々試してみたいので学校の運動場へ来ている。
一通りモノセロスの実力を確認した後の一服タイム。
そこで愛希先輩に聞いてみた。
あの部屋が元々何の部屋だったのか?
修先輩と詩織先輩はどういう関係なのか?
詳細説明無しの質問に愛希先輩は答えてくれる。
「元々はあそこ、修先輩の部屋だったんだ。露天風呂から近いしベッドがクイーンサイズで広かったから、よく詩織先輩が入り浸っていたな。杖や魔法の研究なんて難しい事を話したりしながら。
まあ態度的にも修先輩と詩織先輩は兄妹みたいな感じだったからさ、特に私達も気にしなかったな」
「あと修先輩と詩織先輩はどんな関係なんですか。確かに仲は良さそうですけれど」
「兄妹みたいな感じかな。同じ学科だし研究内容が一部似ていたりで。夜中まで部屋で話し合ってそのまま修先輩のベッドで一緒に寝ていたりなんて事もあったけれど、香緒里先輩も特に気にしていないような感じだったし。
あと、私達は直接知らないんだけどさ。詩織先輩が1年の夏前頃、どうも詩織先輩がらみで何か事件があったらしい。状況はよくわからないけれど、修先輩と詩織先輩、あと香緒里先輩とで数十人単位の特殊部隊の襲撃に遭ったそうなんだ。
その時詩織先輩は精神的ダメージか何かで倒れていて、香緒里先輩がそれを魔法で治療して、その間修先輩が敵を迎撃していたらしい。
だから詩織先輩は『今でも強さって事を考えると、あの時の修先輩を思い出してしまうのですよ』って言っていた。何かの雑談の時にだけどさ」
うん、状況はわかった。
わかったけれど……
何か切ないな。
詩織先輩が兄妹みたいにしていたのは本心だろうか。
それとも偽装なのだろうか。
偽装だとしたら本心はどうなのだろうか。
僕にはわからないし今後わかる事も無いだろう。
ただきっとそこに何か物語があった。
少なくとも詩織先輩側には色々物語があった。
修先輩はそれに気づかずに通り過ぎた。
いや、本当に気づかなかったのだろうか。
僕はわからない。
きっとわからない。
ただちょっと切ない。
ところで。
「愛希先輩は何故僕がそんな事を聞いたか、聞かないんですね」
愛希先輩はふっと肩をすくめる。
「聞かれたくない事だってあるだろうしさ。それにお年頃の男女がこんな固まって生活しているんだ。色々ある方が本当だろ。
ただ、結果的にいつか皆で幸せになればいいんだ。そうしてずーっと未来で、あんな事もあったねと皆で笑いあうのさ。それでいいし、それで充分!」
うん、愛希先輩はきっと正しい。
少なくとも今の愛希先輩の考え方、僕は好きだ。
「さて、もう少しこの杖の実力を試してみるか。何とかして異空間移動は実現したいな。目指せ本土、お買い物天国!」
おいおいおい。
「少しは僕にも貸して下さいよ。共同所有なんだから」
「文句があるなら自分で作れ、魔法工学科だろ」
まあそうだけれどさ。
「どうせなら色々自分なりに考えて、もっといいのを作りたいじゃないですか」
そんな訳でまだ色々解析中なのだ。
作るのは解析を終えてから。
愛希先輩は何故か僕の台詞を聞いてにこっと笑う。
「ならもっといいのが出来たらこれと交換!」
「それずるくないですか」
「もっといいのを作ればいいだろ」
「きりが無いですよ」
「そんなものだろ、人生って」
言葉のじゃれあいだけれど、それも楽しい。
うん、きっと今の僕は幸せだし満足しているんだな。
ずっとこんな感じで愛希先輩と過ごせたらいいな。
そう思える午後の昼下がり。
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