第148話 新目標は次々と

「いや、まさか攻撃魔法科で実技筆頭なんてしている魔法使いが魔力を魔力のまま使っているなんて思わなくてさ」


 保養所の男子更衣室兼詩織先輩の作業部屋兼ミーティングルーム。

 ホワイトボードで僕にしたのと同じ説明をした後、修先輩はそんな感想を言った。

 なお部屋にいるのは修先輩と僕、愛希先輩、理奈先輩だ。


「参考までに聞くけれど愛希、ファイアストームとかはどうやっている訳かしら?」

「どうって、熱線で一部の空気を超高温に熱して、その空気の層と常温の空気の層を軽く混ぜながら押し出している。それが普通じゃ無いのか?」


「ならファイアボムは」

「あれは一番簡単。何でもいいから該当場所の物質1キロ位を一気に高温にするだけ。ただ破片が飛んで危険だから本気の時以外は極力空気だけでやるけれど」


「だったら、愛希の本当に一番強い魔法って……」

「うん、ただの熱線。ただ見えないから避けられないし、その割に被害甚大だから人相手には使った事が無い」


 理奈先輩が頭を抱えた。

「うーん、理奈とは中学2年以来の付き合いなのですけれどね。全然気づかなかったですわ」

「逆に私は魔法なんてこんなものだと思っていたけれどな。だからどうやれば理奈みたいに見える魔法攻撃になるか、結構必死に考えたんだ。どうすれば魔法少女みたいな感じになるかってね」


「愛希は中学2年まで一般クラスだったんです。ただ魔法が使えないけれど魔力はありそうだっていうので、中2の時にここ出身の上町先生に訓練してもらって」

「最初は難しかったけどな。魔法の目標にしたバケツ、幾つ爆発させたっけ?」


 なるほど、愛希先輩は最初から魔法を使えた訳じゃないのか。

 だから僕と同じように魔力を変化させる事を覚える前に魔力のまま放出する事を覚えたと。

 修先輩も色々頷いている。


「何とか状況は理解した。それならヘリテージよりモノセロスの方が使いやすいだろう。ただ、そのまま渡すのは面白く無いな。ちょっと待ってくれ」

 修先輩はそう言うと部屋に置いてあるパソコンに向かう。


 このパソコン、一応詩織先輩のものだが共用で使ってもいい事になっている。

 高性能でメモリも大容量でグラボも最高級、ネットにも繋がっている優れ物。

 修先輩は何かのデータをダウンロードしてUSBメモリに入れ、僕に手渡す。


「このUSBにモノセロスの設計データ、背景にある理論、出力や効果等のデータを一通り入れておいた。だから必要なら自分で作ってみてくれ。材料は学生会の工房にいくらでもある。それに工夫すればあそこの工作機械で作成可能な筈だ。

 それまでは前に渡したモノセロスは2人で共用で使ってくれ。ただ愛希は実技の授業では使用禁止な。普通の杖相手にモノセロスを使うのはフェアじゃ無いし」


「逆にいいんですか、こんな貴重なデータを渡して貰って」

 修先輩は頷く。


「モノセロスについては完全に僕1人の権利パテントだからね。工程を最適化するためにちょっと他の力を借りただけで。だから追加生産しようが改良しようが他に権利関係の問題は無い。ただ面白い改良が出来たら僕に教えてくれると嬉しい。そんなところ」


「早速やってみます」

 面白そうだ。

 背景にある理論を含めて。

 どうせ工房には明日も通う。

 新素材で刀を試作するから。

 逆にある程度刀の作業が済めば、あとは自由に使える訳だ。


 とすると、まずはこの中のデータの解析をしてみないと。

 CADのデータも入っているからそのまま作るのも可能だろう。

 でもある程度原理を知っていれば部品の機能もわかるし作るときの参考にもなる。


「愛希先輩、僕は取り敢えずこのデータを一通り解析してみます。だから今はその杖、愛希先輩が持っていて下さい」

「わかった。でもいいのか、それで」

「解析が終わり次第もう1本作ります」


 修先輩がログオフしたパソコンに今度は共用のIDで入り直す。

 このパソコンは僕の部屋にあるパソコンより遙かに高性能。

 作業環境としては最高だ。


 まずはUSBの中にどんなデータが入っているか。

 僕はそこから分析に入る。

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