第144話 僕、さらにパワーアップ!

 まず戻ってきたのは修先輩。

 木製の棒状のものを2本持っている。

 ひとつはルイス先輩用の刀の鞘、そしてもうひとつは金属製の杖?だ。

 杖?というのは形が今までの杖と大分異なる形をしているから。

 ボートのオールをぐっと短くしたような形。

 もしくは卓球のラケットを長くしたような形だ。


「まずはこっちがルイス用。確認頼む」

 そう言って鞘をルイス先輩に渡す。

 ルイス先輩は鞘を左手に持つと、すっと刀を納める。

 その動きがいかにも慣れていて格好いい。


「さすがです。ちょうどいい」

「本来は白木の鞘や柄は保存用なんだけれどさ。グリップも考えて太さをあわせたし、木材も脱水圧縮加工をして幾分軽くしておいたから」


 たかが30分程度の作業でそこまでやるとは、やはり工作魔法持ち。

 まあ修先輩の工作魔法は他と比べてかなりチートな部類に入るらしいけれど。


 最近はそれも大分わかってきた。

 何せ僕の周囲で工作魔法を使用するのは典明、ロビー先輩、修先輩、そして田奈先生とオスカー先輩。

 工作魔法の使い手として修先輩以降の3人は島内屈指レベルの実力者らしい。

 ロビー先輩も、特に金属製品を扱わせれば学内でも上位レベルとの事だ。


 そして修先輩はもう1本の、杖?なものを僕に渡す。

「これは魔法の発動原理を研究する過程で試作した特殊魔法杖、通称モノセロスと呼んでいる。厳密にはオリジナルのコピーだけど性能は本家と同じ。

 使用者と使用魔法を極端に選ぶ杖だけれども朗人にはきっと適合すると思う。ちょっと試してみてくれないか」


 一角獣モノセロスというには不格好だな杖だな、と思いつつ僕は握ってみる。

 瞬間、今までと明らかに違う感覚を感じた。

 杖のラケット部分は飾りでは無い。

 これは送受信共用のアンテナ。

 向けるとその方向の視界というか情報が一気に見える感じがする。

 今度は近くの木片にちょっと魔力を当ててみる。

 木片は瞬時に炭化、僅かな灰を残して消え去った。


「とんでもない出力ですね、これは」

「朗人なら自在に出力を調整できる筈だな、きっと」


 なら、今度は別の木片を。

 木片の中心のごくごく狭い部分だけに熱を通す。

 お、あっさり穴が開いた。

 しかも木片の他の部分はそのままだ。


「確かに使いやすいですね、これ」

「ただこの杖、普通の魔法使いだと使えないんだ。特殊すぎてさ」


「ちょっと借りてみてもいいのですか」

 あ、詩織先輩がやってきたぞ。


「いいけれど、詩織の魔法は分化済みだから杖の機能を使えないと思うな」

 僕は詩織先輩に杖を渡す。

 詩織先輩は杖を構えて、そして顔をしかめる。


「確かに、魔力が流れないです。動きがわからないのです。これは本当に魔法杖なのですか」


「借りてみていいですか」

 香緒里先輩も試してみるようだ。

 色々な持ち方で持ってみている。


「魔力が流れないという事は無いですが、やはり動きがよくわからないです」

 修先輩は頷く。

「それが普通なんだ。既に使える魔法が分化済みの魔法使いにはこの杖は使えない」

 杖が僕の所に戻ってきた。


「そういう訳で杖としては失敗作、実用品にはなれなかった。だからお蔵入りになっていたんだけれどね。でも適合者が使えば理論性能はプログレス以上の筈だよ」


「修兄、それって完全に禁制品の限度を超えてますよね」

 香緒里先輩が軽く修先輩の事を睨む。

 修先輩は苦笑して肩をすくめた。


「使える人が多ければ禁制品を通り越して第1種情報制限品扱いになったんだろうけれどね。現状では制限はかかっていない。まあ魔力を魔力のまま放出する魔法使いなんてまずいないし、いても普通の環境では発見できないからね」

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