第143話 次世代型が見えてきた
ちょっと離れたところで刀を振っていたルイス先輩が戻ってくる。
「すごくいいと思う。個人的にはもう少し柔らかい方が好みだが、鈴懸台先輩はこのままの方が好きだろう。振った時の一体感が今までと違う。何というか、手をそのまま伸ばしたようなそんなダイレクト感がある」
「ルイスがそう言うなら間違いないのです。なら製造機械の設計変更なのです」
そう言って詩織先輩はパソコンに向かい、猛烈な勢いで操作をはじめる。
自分で連れてきた3人の事等お構いなしだ。
ルイス先輩が修先輩に謝っている。
「すみません、詩織がいつもこんな感じで」
「いや、どうせ僕も香緒里ちゃんもこの後手伝わされるんだろうしね、新しい機械の製作をさ」
「刀用の板材作成機も修兄に作って貰ったんですよね、元々」
「まあ香緒里ちゃんの付与魔法で動いているんだけれどね」
まさか詩織先輩、この場でそこまでやってしまうつもりなのか。
そしてルイス先輩はまた少し離れて刀を色々確認しはじめた。
「それにしてもあの焼きなまし処理、ここの機械では出来ないだろ。どうしたんだい?」
「僕の魔法です。杖を使えばある程度の熱操作は出来るので」
今では僕も杖さえ使えばある程度の温度の上下は出来るようになっている。
ただ純粋な熱操作だけなので見た目の格好良さは無い。
愛希先輩に言わせると僕の魔法は理屈先行型。
青葉が使うような見た目にも派手なイメージ型の魔法と違い操作対象とその挙動を納得しないと無理だろうとの事。
だから水があれば氷を作れるし燃えるものがあれば炎を起こせる。
しかし何も無い処から氷や炎を生み出すにはそれなりの理論を必要とするそうだ。
そんな魔法なので、料理を作ったり風呂の温度を調整するくらいしか使えない。
魔力もまだ全然無いしさ。
「そこまで魔法を使えるようになったんだ」
修先輩はそう言って工房の奥へ。
「詩織、杖の材料を少し借りるぞ」
「いいのですよ。後でまた補充頼むのです」
修先輩は工房の最奥部分で作業を始める。
そして香緒里先輩は相変わらずデータを確認中。
皆やりたい放題というか自由だな。
そして色々刀を振っていたルイス先輩の動きが止まる。
「詩織、もし良かったらこの刀譲ってくれないか」
「それは朗人の作品なので朗人に頼むですよ」
「なら朗人、頼む。代金は払うから」
何か場が混乱しているのでちょっと反応が遅れた。
「いや、それは試作品だから代金は別にいいですけれど。でも、じきにもっと安定した量産品をつくりますよ。そっちを試した方がいいと思いますけれど」
「いや、これがいい。今までの僕と違う別の戦い方が出来そうな気がするんだ。確かに今までの僕の好みと違うけれど、その分何か可能性を掴める気がする」
「それならいいですよ。ただ仕上げはしていないのでやりますけれど」
「いや、このままがいい。あ、鞘は……。修先輩お願いします。今と同じ白木で」
「ほいほい」
奥で鋭意工作中の修先輩が振り向かず返事だけを返してくる。
そして別の方からも声が。
「朗人、今回の試作品の焼きなましは何度でどの範囲で何分間なのですか」
「最大1500度で、刃用の中心部から7ミリ幅刃方向を除いて全体です。1500度到達まで約30秒で、あとはそのまま冷ましています」
「あと詩織ちゃん、私の意見だけれど、表面はもう少し炭素除去してゆっくり冷ました方がいいかもしれないです」
「了解なのです。酸素吹きつけで更に表面だけ炭素除去可能なのです」
詩織先輩、香緒里先輩のデータ解析を受けて更に改良する気だ。
そんなこんなでそれぞれ色々やっているうちに、少しずつ形が見えてくる。
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