第142話 新素材刀の出来映えは

 僕はもう一度新素材で刀を作ってみる。

 変な工夫をせず素直に叩いて形を作る事だけを心がける。

 強いて言えばほとんどそりのない形に仕上げるだけ。

 そうして出来た研ぐ前の刀を万力で固定。


 さあ、ここからが実験だ。

 僕は魔法杖を構える。

 表面、それも刃先付近を除く表面に熱魔法をかける。

 色は白く見えるまで。


 そして不均質に熱が加わったまま、ゆっくり冷ます。

 刀は相対的に熱を多くかけた背の方へとゆっくりそっていく。

 うん、まあまあだな。

 完全に冷めた段階で研ぎ機にかけた。


「朗人、何を企んだのですか」

 あ、詩織先輩がにやにやしながら聞いてきた。

 どうやら気づいたらしい。


「日本刀の作成過程に焼き入れってあるじゃないですか。今やったのはその反対で焼きなましです。つまり刃部分以外の表面の炭素含有率を熱で少し下げてやったんです。これでうまくいけば刃付近中央のみが高い硬度の刃になるかと」


「なるほど、焼きなましですね。確かに上手く行く可能性があるのです」

 詩織先輩は頷く。


 本格的な日本刀の作成過程と比べ、ここでの刀の作成はかなり手順を省いている。

 刀と言うよりナイフの工程にむしろ近いかもしれない。

 素延べまでは機械で自動的にやってしまう。


 人がやる過程は火造りの部分だけ。

 しかも土置きや焼き入れは素材の段階で成分調整されているので行わない。

 鍛冶押しや中心仕立なかごしたてはフレキシブルマルチ加工機が自動でやってくれる。

 だからこそ2人でもそこそこ揃った質のものを量産できたのだ。

 でも省いた手順の分、途中で調整するという考えはあまり無い。


「これが上手く行けば材料の鋼生産過程を少し改造するのですよ。焼きなまし過程を加えて、刃の部分だけそのままになるように調整するです。反った板材に仕上がるですが次のカット工程で何とかなるのです」

 詩織先輩、速くも工程の改造まで考えている。


「とにかく学園祭までには最低40振、欲を言えばその倍は作らないといけないのです。100振作れれば取り敢えず断ったり増産したりする手間が無くなるのです」

 という事なので割と切実だ。

 そして刀研ぎ終了のお知らせ音が鳴った。


 取り敢えず急いで物性測定器に出来たばかりの刀を固定する。

 これも魔法特区ならではのトンデモ機器で。

 魔力を噴射して構造及び強度等を測定する装置だ。

 詩織先輩も香緒里先輩も検定魔法を苦手としているので必須な機械。

 なお詩織先輩のお小遣いで買ったらしいが値段は恐くて聞いていない。


「あと判定に便利な人間も呼んでくるのです」

 詩織先輩はそう言って姿を消した。

 判定に便利というと、やはり修先輩かな。

 検定魔法での測定結果を数値化してコンピュータに自動でデータ入力するという、よくわからない魔法も使えるらしい。

 何処までご都合主義なんだ、あの先輩の魔法は。

 まあ田奈先生ゼットンも似たような魔法を使えるらしいけれど。


 スキャンが終了し、測定結果が出る頃。

 詩織先輩は再出現した。

 修先輩と香緒里先輩、そしてルイス先輩も連れてきている。

 制作者と測定判定係、そして使用者代表という処だろう。

 OB含めた学生会、人材豊富で何よりだ。


「若干そりが微妙なのですが、新素材の刀の試作品なのです」

 という事で、まずは修先輩へ。


「お、これはなかなか面白い出来だな。会わせ無しの完全一体成形か。良くこんな都合のいいように素材を各部調整しているなあ」

 そう言うと刀を持ったままストックヤードの方へ歩いて行く。

 何かを拾って、戻ってきた時には白木の柄がついていた。


「杖用の木で即席で作った。保存用白鞘みたいな感じだけれど無いよりいいだろう」

 そう言って刀をルイス先輩に渡す。

 一方、香緒里先輩はデータの方を確認中だ。

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