第7章 いつか未来で笑い合おう

第141話 今日は刀の試作中

 夏休みはまだまだ残っている。

 そしてやるべき事は結構多い。

 少なくとも僕の場合は。


 翌日から午前中は詩織先輩と工房へと通う。

 そして午後は愛希先輩による魔法特訓等。

 勿論20人分の食事を作るというお仕事もある。

 常に三食作っている訳では無い。

 夕食は大体作っているけれど、朝食や昼食は香緒里先輩やソフィー先輩が作ってくれる事も多い。


 他の皆様は皆様でそれぞれ色々やっているようだ。

 広報班は委託販売した広報誌?が絶好調なようで追加印刷及び次号作成中。

 ジェニー先輩と沙知先輩は南浜海水浴場の監視員当番もあるそうだ。


 聟島唯一の海水浴場が6月から9月終わりまで南浜にオープンする。

 ただ聟島近海はサメも結構多い。

 だから海水浴場開場中はレーダー魔法持ちと電撃魔法持ちが常時監視。

 サメが来るのを魔法で感知、電撃魔法で追い出すのだそうだ。

 

 普段は島の管理公社の担当者がやっている。

 でも担当部署にレーダー魔法持ちは1人しかいない。

 だから夏休み期間中はレーダー魔法持ちがバイトを兼ねて適宜交代するとの事。


 他にも島にある魔法研究機関や魔法関連施設のモニターやアルバイト等も多い。

 魔法を使わないと出来ない製品等も多いそうで、暇な魔法使いが余っている夏休み中に色々やっているようだ。


 さて、刀の方だ。

 今は詩織先輩の研究発表と僕との意見交換という形になってきている。

「今ここで作っている刀は基本的にルイスと翠先輩の意見で重量バランスを決めているです」


 そう言って詩織先輩はCAD画面を呼び出す。

「こっちが理想の刀の成分バランスと重量バランスを計算したものなのです。理想に近い不均質鋼による丸鍛え。私の作成した最新の材料なのです。ただその分加工が難しいのです。

 そしてこっちのデータが今までの本三枚で作った場合のデータなのです。

 三つめは参考でコールドスチール製の合金刀のデータなのです」」


 静的な場合の強度データ。

 そして巻き藁を斬った場合の動的な強度データ等が出てくる。


「なお解析はパソコンでは時間がかかるので解析専用マシンを別途作ったのです。パソコン15台分をクラスタ化しているのです」


 そう言えば台湾へ行った時、詩織先輩が自作パソコン用の部品を大量購入していたような……

 何でもやっているし作っているな。

 この人の頭の中はどうなっているんだろう。

 まあ今は刀の事を考えよう。


「これだと確かに丸鍛えの方が有利ですね」

「でも丸鍛えだと適切な場所に適切な材質が来るように作るのが難しいのです。なので研究はしているのですが今はまだ本三枚で作っているのです」


 詩織先輩作成の刀用不均質鋼のデータが出てくる。

 うん、なるほど。

 詩織先輩の特訓の成果で僕にも色々わかるぞ。


「これだと普通に作ったら刃部分に近い材質が横方向に折れやすいですね」

「その通りで刃が欠けやすいのです。かといって皮鋼でくるむと意味は無いのです」

「確かにそれなら本三枚でやればいいだけですね」

 2人でデータを見ては実作をして研究する感じだ。 


 何も今までのもので品質の問題は無い。

 でも詩織先輩に言わせると、

「同じものを同じように作るのは苦手なのですよ」

という事らしいのだ。

 その向上心は見習うべきだなと思う。

 詩織先輩はマジものの天才に近いので完全には見習えないだろうけれど。

 せめてその姿勢だけは。


 今の段階に来るまででも既に色々な研究や試行錯誤がある。

 鋼の元になる合金も市販の1095、青紙1号、青紙スーパー、SKD11、M-2、ATS-34、ZDP189と色々試している。

 その上で開発したのが刀用不均質鋼だ。

 旅行から帰ってきた詩織先輩が作った最新素材。

 板材の時点で既に部分ごとに素材の炭素含有率等が異なる刀専用の素材。

 魔法機械で製造しているので事実上この島でしか作成できない素材だ。


 そんな訳で僕も新素材で本日から試し打ちをしている。

 そして新素材での実作2作目。

 思った以上に叩いても伸びないまま温度が下がってしまった。

 もう一度魔法炉に入れようと思ってふと気づく。


 あ、ひょっとして……

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