第140話 温泉街にて旅の終わりを

 17時20分。

 全員が再度集合してくる。


 服装や髪等から見てほとんどが風呂に入っていたらしい。

 例外は広報班で、何やら本当に会議をしていたようだ。

 ここの集合にもメモ帳やカメラ等を持参でやってきた。


 典明に様子を聞いてみる。

「どうしてたんだ、広報班の方は」

「いや。この建物は色々面白いから今度の広報誌等でも使えないかという話だった。それで拙者も写真を撮ったりスケッチをしたりしていた」


 本当に真面目に会議や活動をしていたらしい。

 もっとも広報誌というのはあくまで名目。

 実際はBLや危険な恋愛を詰め込んだ同人誌だけれども。


 全員集まったので大広間に集合。

 ここがこの旅館の文化財ツアーの起点になる。

 他の客もぞろぞろやってくる。

 全部で90人位だ。

 案内の人と思われる旅館の人が来た。

 という事で説明がはじめる……


 ◇◇◇


 一通り案内してもらい、そしてその後夕食を食べてまた部屋に戻る。

 なお夕食は今までが豪華すぎたので普通の料理に感じる。

 牛鍋と色々なきのこ料理と信州サーモンのお造り等々。

 悪くは無いしボリュームもそこそこあったのだけれども。


 部屋に戻ってくると、詩織先輩が座卓に食べ物を色々と並べはじめた。

 弁当は僕らが風呂に入っている時間に買い出ししてきたらしい。

 確かに詩織先輩には少し物足りない食事だったろうな。

 普通には質量ともに十分だと思うけれど。


 ルイス先輩は見覚えあるザンギのパックを見て顔をしかめる。

「詩織、また昨日のスーパーに行ってきたのか」

「でもあのスーパー、安くて量多くて味も悪くないのですよ」

 見覚えのある寿司パックもある。

 詩織先輩は結構この2つが気に入っているらしい。

 昨日あれだけ苦労させられたんだけれどな。


「あと、長野で飢えた時のお約束もあるのですよ」

 フランスパンとチーズ、そしてハムの塊を出す。

 このチーズとハムは保養所でもお馴染みのものだ。

 フランスから詩織先輩が買い出してきているらしいけれど。


 ルイス先輩、愛希先輩がその組み合わせを見て苦笑している。

 あ、これは過去に何かあったんだな。


「詩織がはじめて海外へ魔法使って行ったのが2年前の旅行の最中なんだ。あの時は1日目がここの旅館で、2日目が長野で精進料理だったな。それで飢えた詩織が修先輩秘蔵の杖を借りて、フランスの奈津希先輩のところまで飯を食べさせてもらいに行ったんだ」

「あの時は修先輩と理奈と3人で1時間以上正座させられて怒られたのです」

「というか怒るにかこつけて皆でハムとチーズをつまんでいたんだけどさ。皆肉類に飢えていたし」


 そんなしょうもない理由で海外まで脱出したのか……

 何だかなと思いつつ、いかにもな感じに思わず僕も納得してしまう。


 ふと。

 後ろで部屋の扉が開く音。

「ご飯が足りないので遊びに来たわよ」

 由香里大先輩だ。


 他にもごそごそ。

 旅行の面子がぞろぞろと入ってくる。

 あ、でも何人か足りないような……


「香緒里と朱里と風遊美、あと修は外湯を廻っているわ。あと闇魔法組も貸し切り風呂でまったりしているみたい」

 そして残りの飢えた人々がやってきた、という訳か。

 どうせ詩織先輩が何か食べ物を用意しているだろうと期待して。

 そんな感じで旅行最後の夜は大宴会になる。

 温泉組も闇魔法組も途中から加わった。


 ◇◇◇


 翌朝は入らなかった外湯を少し廻ってみる。

 それで確認。

 うん、僕の魔法も風呂の温度を下げるには結構有効だ。

 そして朝御飯を食べ更に宿の風呂を楽しみ。

 チェックアウト時間ギリギリに宿を出て。


 横浜郊外のレンタカー屋でバスを返却するという由香里先輩、修先輩、そして移動役の風遊美先輩を除いて。

 僕らはバスの中から保養所の屋上飛行機械駐機スペースへ直送。

 僕の最初の学生会旅行は幕を閉じたのだった。

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