第135話 平和は突然破られる
平和で何より。
そんな事を思っていた僕が馬鹿だった。
いや、甘かったと言うべきか。
平穏な安眠はあっさりと破られた。
強制的に脳内に送られた目覚まし時計のベルの音で。
「さあ、焼き肉の臭いの付いた髪や身体を洗い流しに行くのですよ」
ちなみにこの台詞は詩織先輩で、頭の中に鳴り響くベルは沙知先輩の魔法だ。
迷惑な事この上ない。
確かに風呂なし2日だと少し気になるのは確かだ。
この貸別荘にも一応風呂はある。
狭い普通の家庭用だからあえて入らなかったのだ。
時計を見ると現在は朝3時30分。
一応5時間程度は寝ている計算になる。
「という訳で、全員これに着替えるのです」
着替えとは、毎度お馴染み婿島温泉の浴衣である。
詩織先輩がいつもの魔法で島から取り寄せたようだ。
さっさとLサイズを取って端の方で素早く着替える。
下手にのんびり着替えていると女子高専生生着替えショーに巻き込まれかねない。
僕も大分学習したのだ。
10分後、何とか全員の支度が終わった。
そして全員に詩織先輩がら説明がある。
「これから行く温泉は結構深いです。でも最高でも3メートル以内に足か手が付く場所があるので沈んでも焦る必要は無いのです。
なお下手に足場の悪いところで踏ん張ると酷い目にあう可能性があるのです。踏ん張るより転んだ方が被害が少ないのです。
あと顔が完全に水上に出るまで目は絶対開けない方がいいのです。強酸性のお湯なので目に入ると痛いのです。
濡れて困る機器類は絶対持っていっては行けないのです。持っていっていいのは防水の懐中電灯とタオルだけなのです。」
焦るな、踏ん張るな、目を開けるな、か。
どんなところへ行くんだろう。
今の注意からしてきっととんでもないところだ。
「それでは私を中心に1.5メートルの範囲に集まるのです。なお中心側は深いので男子優先なのです」
という事で。
僕も典明もルイス先輩も女子の中にぎっちり押し込められてしまった。
この押しくらまんじゅう、今まで以上にきっつい。
何せ浴衣の下は基本的に下着だけ。
体温だの感触だのが伝わってくる。
早く移動してくれ。
そう思った瞬間、足の裏の感触が無くなった。
そして5秒くらい後。
いきなりまわりがお湯?
底に足が付かない。
目を開けようとして思い出す。
焦るな、踏ん張るな、目を開けるなだ。
ほんの少し我慢していると頭が水上に出た感じがした。
とっさに腕を伸ばす。
お湯以外何も無い。
目を閉じたまま少しだけ水を掻く。
今度は何か柔らかいものに触れた。
こ、これは!
慌てて別の方向に手を伸ばす。
あ、今度は固い。
何とか岩を掴んで身体を引き寄せる。
そうすると何とか足が下についた。
顔を拭い髪をがっと後ろにやって、目に水が垂れないようにしてから目を開ける。
まわりは暗い。
屋外、それも山深い感じだ。
あ、ちょっと水が目に入った。
確かに痛い。
次第に目が慣れてきた。
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