第134話 お約束な札幌の夜

 そんなこんなで甘味を食べ。

 昼は街に出てサンドイッチを頬張り。

 更に甘味を追加で食べ。

 お約束程度に時計台と大通公園を見て。

 ついでにテレビ塔を遠くから見て。


 市電と徒歩とロープウェイとケーブルカーとを乗り継いで藻岩山についたのが18時30分。

 ほぼ日没の時間だ。


「何かあのちっちゃいケーブルカー、面白かったね」

「木の間を抜けて行くのが何か面白いよな」

 と言いながら展望台へ。


 函館と違って札幌は広い。

 函館は地形から海を挟んで縦長で、先で広がっていく形。

 札幌は手前から横方向に開けている感じだ。

 ちょうど夕暮れ時なので街の形や光がともっていく感じが良くわかる。

 思わず次第に暗くなっていくのをずっと眺めてしまう。

 気がつくともう19時を過ぎていた。


「時間が来る前にあのモニュメントで写真でも撮ろうぜ」

 典明の言葉で展望台中央のペン先みたいな光るモニュメントの方へ。

 現在のモニュメントは3組ほどが待っている。

 そしてそのモニュメントには気恥ずかしい名称と説明が記載されていた。


「恋人の聖地、だってさ。どうする?」

 思わず4人で顔を見合わせる。


「こういう時はな、細かい事は気にせずその場の雰囲気でやってしまう!」

「賛成!」

 どうも今日の典明と愛希先輩は何かテンションが似ているよな。

 そう思いつつも他に意見も無いのでそれに従う僕と美雨先輩。


 まず典明・美雨先輩組が2人で鐘のところへ。

 2人で鐘のひもを引いて鳴らして、こっちを向くところまでを連続撮影。

 そして僕と愛希先輩の番だ。

 2人で鐘を鳴らして、そして写真用に典明らの方を向く。

 そしてふと、奥の方で三脚に一眼レフつけてこっちを構えている人影を発見した。

 あれは、まさか……


 写真撮影後、典明達のところに戻る。

「ところで相談、沙知先輩が一眼レフ構えていなかったか、広報部の機材の」


「えっ!」

 愛希先輩は気づいていなかった模様。

「入口の壁際」

「理奈先輩もいたな」

 典明・美雨先輩組は気づいていたようだ。


 そして案の定2人組がやってくる。

 でっかいカメラと三脚を持って。

「きっちり証拠写真撮れました。粘った甲斐がありましたわ」

 ああ、やっぱり……


「本当は愛の南京錠をかけるところまでやっていただきたかったのですけれどね」

 何だ、愛の南京錠って。


「ローマのミルヴィオ橋なんかで流行ったもののコピーですね」

 美雨先輩の言葉に沙知先輩は肩をすくめる。

「美雨、それを言っちゃ元も子も無いですわ。こういうイベントは取り合えず参加しておくものです。例えいつか、若き日の過ちだったと嘆く事があろうとも……」

「沙知、縁起悪いわよその発言」


「まあまた並ぶの面倒だし、南京錠はパスでいいだろう」

 あっさり典明がそうまとめる。

「そうだな。それにもう19時20分だ。そろそろ待ち合わせ場所に行こうぜ」

 という事で、結果6人でケーブルカー駅の方へ足を踏み出した。


 ◇◇◇


 その後は他の全員と合流、ロープウェイで下りきったところで逆に登山道方面に入り異空間経由で移動。

 元ビール工場というレンガ造りの複合施設の中で個室ジンギスカン。

 食べ放題飲み放題だったため、例によってトドが大繁殖。


 まずはお約束枠で翠大先輩とジェニー先輩。

 次はワインと100%ジュースをミックスしてがぶ飲みしていた由香里先輩と風遊美先輩。

 計4人が途中で歩行移動不能。

 でもここは個室で4人位は消えても他にはわからない。

 なので貸別荘へその場で直送となった。

 風遊美先輩が入っているので4人でまとめて移動して貰う。


 他も基本的にトド化しているのは言うまでも無い。

 食後苦労しながら街中を人影の無いところまでなんとか移動。

 人影が消えたのを確認して貸別荘へひとっ飛びだ。


 その夜はさすがに怪談も温泉何とかの話も無かった。

 うん、こんな日が本当は正しいんだろう。

 胃がちょっと苦しいが平和で何よりだ。

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