第118話 バスは一路函館へ

 そんな話をしていたらいつの間にか午後1時過ぎ。

 慌てて座敷を出て、愛希先輩と2人で急ぎ足で駐車場へと戻る。

 そこそこ道に人はいたのだが、何とか午後1時25分にバスに乗り込む。

 なお僕ら2人が最後だった模様。


「遅れて済みません」

「まだ時間内なので問題無いですわ」

 沙知先輩がそう言って、マイクロバスのマイクを持つ。

「それではこの次は北海道は函館、回転寿司で昼食となります」


「何か進展はありましたでしょうか」

 こそこそと理奈先輩が愛希先輩に尋ねる。

「まあ、物事には手順とか段取りとかあるからさ」

「私の苦手な分野ですわ」

 うん、そんな感じはするな。


 例によって人気が無くなったところで空間移動して北海道上陸。

 松林だった風景が……左は笹藪と何かわからないけれど広葉樹、左は公園らしく芝生とやはり広葉樹になっている。

 そしてやっぱり狭い道だ。


「向こうから車が来ないって確証があるから運転できるけれど、マイクロバスだと辛い道よね」

 とか言いながら由香里先輩が慣れた感じで運転している。


「何か由香里先輩ってマイクロバスの運転慣れている感じですね」

「あ、そうか。朗人は知らないのか」

 愛希先輩がそう言って説明してくれた。

「由香里先輩の愛車もこれと同じ大きさのマイクロバスだからさ。マンションの駐車場に停めているけれど、今年の新人はまだ乗った事は無いか」

 特区では車を使う人が少ない。

 だからマンションの駐車場に停まっている車は2台だけ。

 1台は修先輩の荷物運搬用軽1BOXバン。

 そして確かもう1台はマイクロバスのキャンピングカー。


「あの大きいキャンピングカー、由香里先輩の愛車だったんですか」

「そうよ、免許取って最初に買ったのがあの車」

 本人が運転しながら答えてくれた。

「確かに学生会では最近使っていないわね。今は専ら朱里のヒーリングサロン用になっているし」

「あれも本当は空を飛ぶんだぜ」


 そうだったのか。知らなかった。

 何かもう、何でもありなんだな。

 しかし何故免許を取って最初の車がマイクロバス改造のキャンピングカーなのだろうか。

 しかも2車線道路すら港と役所前までしかない狭い特区で。

 まあ由香里先輩もほどよく常識捨てている人だけれど。


「さて、これから函館の市街地に入って参ります。渋滞は今のところ発生していないので、予定通りに昼食会場へ到着すると思われます。

 なお例によってスポンサーの意向で昼食費用は会社持ちでございます。

 本日は豪華な夕食もございます。

 でもそのために軽く食べようとか甘い計算はお勧め致しません。

 食物との出会いは一期一会。魔法使いなら自分の消化器官の強さを信じて、思うがままに注文してお食べになる事をお勧め致します」

 食い倒れろ、という事か。


 普通乗用車用の区画しか無い駐車場の隅の区画にきっちりという感じにバスは停まる。

 なにげに凄い操縦技術だ。

「朗人に頼みがある」

 真面目な顔で愛希先輩が僕に言う。


「何ですか」

「食べ過ぎそうだったら私を止めてくれ。前も食べ過ぎて酷い目に遭った。何回もやっているんだが治らない」

 回転寿司に限らず毎回倒れているよな、愛希先輩は。


「ちなみにどれくらいが限界ですか」

「確か去年は45貫でダウンした」

 それは人間としてきっと当たり前だ。

「何なら1皿のネタを半分ずつ食べますか。そうすれば種類多く食べられますし」

「そうしよう。頼む」

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