第117話 2人で状況修復中

「何か悪いな、こういう話になっちゃって」

 愛希先輩はそう言って苦笑する。


「理奈はあんな奴だけれど悪気は無いんだ。ただ頭の回転が早すぎてさ、たまに暴発する。

 まあ確かに詩織先輩に頼んだりしたのは事実だけどさ。でも誤解はするなよ。

 私がやったのは朗人の為じゃない。私がやりたかったからやっただけだ」


 それでも結果的に僕が色々助かったのには変わりない。

 つまり色々とまあ、愛希先輩に世話になっていた訳か。

 愛希先輩はさらに言い訳するかのように付け加える。


「朗人には悪けれど、何か典明と比べると器用じゃないというか色々場慣れしていない感じでさ。だからどうしても手を出したくなってしまったんだ。私自身器用な方じゃ無いしさ。だから中学時代は理奈の言うようにあちこち色々ぶつかっていたし。

 朗人に好かれたい為にやった訳じゃない。あくまで個人的な自己満足。だから朗人は義理を感じる必要は無い。そゆこと」


「なら逆に僕が勝手に愛希先輩に感謝するのも、きっと僕の自由ですよね」


「だな。でも逆に朗人、気を悪くしていないか。だとしたら申し訳ない」


「それはないですよ。ただちょっと……僕なりに頭の整理も必要です」

 正直なところ、それが本音だ。

 基本的に愛希先輩に対して悪い感情は全くない。

 詩織先輩に頼んだのもそれが適役とあくまで僕を基準に判断したからだろう。

 それはそれで間違っていない。


 ただ、何というか……気恥ずかしいのだ。

 その辺も誤解されると困るので素直に言っておこう。


「更に正直に言いますけれど、この件で愛希先輩に悪い感情は一切ありません。それは断言できます。ただそれだけに頭の整理にちょっとかかりそうです。だから時間を下さい」


 愛希先輩は頷いた。

「まあ、正直こっちもかなり気恥ずかしいしさ。今この話題をこれ以上ここで冷静に話せる自信は無いな。

 でもそういう感覚は理奈はわからないんだ。結論をすぐに出せる奴だから」

 愛希先輩の台詞は僕を十分に安心させてくれる言葉だった。


 こういう処がやっぱり愛希先輩で、そんな処が僕としてはすごく好みで楽だ。

 それに愛希先輩自体、僕にとって嫌いな処は何一つ無いと言っていい。

 というかぶっちゃけ色々好みだ。

 でもだからこそ、まあ色々と考えたいし場所も時も選びたい気もするのだ。

 理奈先輩はその辺も全て短絡ショートカットして答を出せるから気づかないのだろうけれど。


 気恥ずかしい雰囲気を少しでも変えるべく、別の話題をあげてみる。

「そう言えば美雨先輩と典明の方も同じような工作にあっているんですかね」


「美雨か、あっちもまた大変そうだな」

 愛希先輩はそう言って、続ける。


「あくまで理奈の意見の受け売りなんだけどさ。美雨もまた頭が切れすぎて難しい奴なんだ。

 例えば美雨が沙知とつるんでいる理由。同じクラスに美雨の思考速度に合わせられるのがあいつしかいないだけらしい。

 沙知がそう言っていたんだと。『それでもあのクラスの全員と付き合うより、美雨と付き合った方が刺激があって楽しいんですよ』って」


 うわっ、何かもうとんでもない話だ。


「研究会に入らずに学生会に来たのもそれが原因らしい。研究会は見て回ったけれどレベルが低すぎて合わせられないからなんだと。

 学生会ならソフィー先輩や理奈、OBだと風遊美先輩とか朱里先輩あたりはなんやかんや言って天才だからさ。美雨とも普通に話せるし必要なら美雨が納得できるような意見も言える。

 さて、そこで典明と同じクラスの朗人の意見が聞きたいな」


 うん、愛希先輩の言いたい事が何となくわかる。

「典明は一見誰とでもあわせられますし、僕とも普通に会話も出来ます。でもきっと典明も本質的にはそっち側の人間です」


「だろ」

 愛希先輩は頷く。

「そんな訳で、美雨が典明に興味津々なのは学生会の2年以上では公然の事実って奴なんだ。美雨は頭はいいけれど対人方面の経験とか手管とかは無いからさ。ここへ来るまでも出来が良すぎてよく言えば特別扱い、悪く言えばぼっちだったらしいし」

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