第113話 機関車、廃線に

 駐車場は割と空いていた。

「ここから出雲大社までは1キロちょっとあります。せっかくですから歩いて街の雰囲気を楽しみながら行きましょう。それでは1時半まで自由時間です。例によって遅刻者は強制転送しますので宜しくお願い致します」


 おい、随分遠い駐車場だな。

 そう思ったら典明が僕に声をかけてくる。

「ちょうどここで見たい物があるんだ。付き合って貰っていいか」

 お、典明がそんな事を言うとは珍しい。

 何があるんだろう。


「いいよ」

 という事で一緒に出ようとしたところ、いきなり声をかけられた。


「どうせなら一緒にいきませんか」

 理奈先輩だ。

「見に行くのは国鉄旧大社駅ですよね、きっと」

「わかりますか」

「美雨も行きたいみたいだし、一緒に行きましょう」

 という事でいきなり6人体制になる。

 僕と典明の他は、愛希先輩、理奈先輩、美雨先輩、沙知先輩だ。

 何でこうなった、と毎回ながら思うけれどしょうが無い。


「それで目的の建物は?」

 バスを出てすぐ僕は典明に聞いてみる。

「そこだ。この駐車場は旧大社駅の駐車場だから」

 目の前に見えている木造の建物がそうらしい。

 白壁に木の柱に立派な瓦葺き。

 いかにもまあ、古くて立派な日本の建物、って感じだ。


「何か映画のセットのようだね」

「現役を離れてもう数十年経つのに綺麗だし立派だよな」

 そんな事を言いながら中に入ってみる。


 中は外から見た以上に何というか、浪漫を感じさせる作りだった。

 高い天井。

 木製の見事な格子状の造りの待合室。

 切符販売窓口が右側に並んでいる。

 ガラスが磨かれていて上に時計もあって運賃案内表までかけてある。

 今にも人が現れて動き出しそうだ。

 廃線という雰囲気が無い位に明るい。

 人がいないだけで。


「当時そのまま、って感じですね」

「ああ。廃止から約30年経っているけれど」

 お、確かに美雨先輩と典明、いい雰囲気かもな。


「お、ホームに蒸気機関車がある」

 愛希先輩がとっとっととそっちに歩いて行く。

 僕も後を追う。

 自動改札ばかりの現代では珍しい中に人が入る形式の改札。

 そこを抜けるとホームがそのまま残っていた。

 線路もまだ残っている。

 そして向こう側のホームに確かに蒸気機関車が止まっていた。


 愛希先輩の後を追ってホームを降り、線路を渡って向かいのホームへ。

 その先に蒸気機関車が停車している。

 ただ、ちょっと残念なのが。

「サビだらけだね」

 愛希先輩もちょっとがっかりしたように言う。


 修先輩辺りなら魔法で稼働状態まで直せるだろう。

 でもそれをやったら騒ぎになるだろうな。

 D51774と番号を記載されたプレートがある。

 これがこの蒸気機関車の名前なのだろうか。


「でもこれが昔走っていて、そして線路もずっと続いていたんだね」

 愛希先輩がそう言ってホームの先を見る。

 線路はそこで途切れているけれど、かつてはこの先ずっと続いていたのだろう。

 そして大勢の観光客を乗せてやってきたのだろう。

 典明の言う通りなら30年位昔の話だろうけれども。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る