第111話 会長曰くこれも伝統

 そして寝る部屋もまあ、何というか……

 4部屋取ったのなら1部屋はきっと男性部屋だろう。

 そう思っていたのは僕の認識不足だった。

 もとよりそんなの学生会の魔女連中が気にする訳はない。


 それぞれ勝手に部屋を陣取って行き、気がつけば僕も典明も同じ6人部屋。

 僕と典明の他は、愛希先輩、美雨先輩、エイダ先輩、青葉。

 まあ確かにこの部屋が8畳の2間続きと一番広いんだけれども。

 何故こうなるのか、訳がわからない。

 ちなみに部屋の電気は既に消してある。


「3四歩」

「3八銀」

「8六歩」

 部屋の反対側では寝た姿勢で典明と美雨先輩が将棋をしているようだ。

 無論盤なし駒なしの脳内将棋である。

 もう1時間以上続いているが、よく盤無しでやっていられるな。


 そして俺の左側の布団に愛希先輩。

 右側の布団が青葉。

 寝心地は最悪だ。


 2人とも既に寝息をたてている。

 青葉の奴なんかさっきの寝返りでこっちを向いていて、気を抜くと息が顔で感じられてしまう。

 かと言って愛希先輩の方に近づきすぎるとそれはそれで心臓に悪い。

 愛希先輩はこっちに寄って丸まって寝ていて、時々手や足による直撃が来るしな。


 何度も寝ようとしたのだが眠れない。

 時計を見ると既に1時間以上頑張っている計算になる。

 もう駄目だ、限界。

 一度頭をリセットしよう。


 ゆっくりと布団から這い出て、浴衣を直し掛けてあるタオルを取る。

 出来るだけ静かに部屋の扉を開け、廊下へ。

 幸い誰も来る気配はない。

 取り敢えず割と近い場所にある大湯へ。


 ここを選んだ理由は簡単。

 ちゃんと男女別になっているからだ。

 しかも一応露天風呂。

 湯船は決して大きくないけれど。


 ここはいざという時用にパンフを見て考えていたのだ。

 まさか夜中に来る羽目になるとは思わなかったけれど。

 そして入ってみると先客がいる様子。

 まあいいかと思って入ってみる。

 ルイス先輩だった。


「どうしたんですか、こんな真夜中に」

 確かルイス先輩は早寝早起き。

 それは保養所でもかたくなに厳守している筈だ。


「まあな、ちょっと詩織が寝相悪くてさ」

 何となく想像がついた。

 苦労しているな、ルイス先輩。


「朗人はどうした」

「ちょっと寝苦しくて」

「そうか、大変だな」

 向こうにも状況はわかって貰えたらしい。


「典明はどうしている」

「眠れないらしく、美雨先輩と将棋をしています」

「美雨も喜んでいるからな。色々話が出来る後輩が来たって言って」


 そうなのか。

 美雨先輩は無表情だから良くわからないのだが。

 でも確かにあの2人は色々とお似合いな気はする。

 盤面無し脳内ゲームが出来る異常な頭の構造とか。

 制作会議とか称してよく2人で話しているし。

 話の内容が高度すぎて横で聞いていても理解できないけれど。

 知らない単語や概念がゴロゴロ出てくるから。


 それにしても僕はここで何故男2人で風呂に入っているのだろう。

 理由は良くわかっている。

 でも納得はいかない。


「諦めろ、これもうちの学生会の伝統だ」

 ルイス先輩が僕の心を読んだかのようにそう言った。

 そうなのか、やっぱり…… 

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