第108話 旅行の始まり
「薊野工業の皆様、こんにちは。この度はこの旅行のアテンダントを務めます綱島沙知と申します」
何故か沙知先輩がそうアナウンスしている。
誰も突っ込まないところを見るとこれも正常らしい。
なおバスの座席は指定席だとの事で、沙知先輩が全員の席を指定していた。
もっともOB連は後ろの方で半ば自由席状態になっているが。
ちなみに僕は前から2番目の席の窓際で、隣が愛希先輩だ。
愛希先輩は確かに親切だし話しやすい。
でもこの距離で女の子が横にいるのは経験として初めてだ。
なのでなかなか緊張する。
この前は間接キスなんてしてしまったし。
意識しているのは僕の方だけかもしれないけれど。
「あの沙知先輩がこの担当って、前からそうなんですか」
僕のこの緊張をごまかすべく愛希先輩に小声で聞いてみる。
「ん、あれは勝手にやっているだけだな」
え、そうなの。
「元々旅行の担当なんて、財布担当の修先輩以外は特に決まってないんだ。今回はバスがあるから由香里先輩が運転担当だし、それに伴って詩織先輩と沙知が移動と監視担当をしているけれども。他は勝手にやりたい奴がやりたい事をやっているだけ。まあ詩織先輩のおやつ弁当買い出し担当と同じようなものだな」
そうなのか。
それじゃあこの席順なんかも、ひょっとして……
「バスはこの後、川崎の工業地帯を経由して異空間経由で長野県は穂高まで参ります。なお宿のチェックインは3時ですので、大王わさび農場で休憩を取る予定でございます。あらかじめご了承下さい。
それではしばらくの間、車窓からの風景をお楽しみ下さい」
なお今現在、まわりは何の変哲も無い倉庫街である。
そう思った時だ。
「由香里先輩すみませんチャンスです。今見えている信号2つめを左に曲がって下さい。詩織先輩スタンバイ願います」
今度は沙知先輩がマイクなしで言う。
「了解よ、2個目の信号左ね」
「こっちも了解なのですよ」
「早くも人目が無い場所に到着の模様です。それでは皆様……、由香里先輩、直進50メートルで停止です。詩織先輩、停止したらすぐお願いします」
沙知先輩は魔法レーダーで他人の視線を判断出来るらしい。
マイクロバスが止まった瞬間、外の景色がぼやける。
「空いているので第1予定場所へ行くですよ」
ほぼ10秒位で外の風景が再び現れる。
あまり広くない道だ
道の両側は熊笹や木が生い茂っている。
「対向車が来たらと思うと不安な道ね」
由香里先輩はそう言ってバスをスタートさせる。
そんな事を言いつつも運転は安定しているし上手い。
「来ないのを確認しているから問題無いのです」
「由香里先輩、まもなく交差点、右にお願いします」
「了解。最初の予定通りね。把握したわ」
運転担当、空間移動担当、レーダー担当でそれぞれ話し合いは出来ているらしい。
「さて、予定より早くなりましたがあと10分程で大王わさび農場に到着したします。ここでお弁当及び休憩、散策、買い物、食事の予定です。
こちらの出発は14時30分を予定しております。間に合わない場合は強制的にバス内に転移させる場合がありますのでご了承下さい。
なおこの農場内にはレストランもございます。お弁当を後に取っておく方は事前に詩織先輩に申告下さい。保養所の冷蔵庫で保管します。ただし食べないまま本日の0時を過ぎた場合、所有権が破棄されるそうなのでご了承下さい。」
それは賞味期限という問題なのだろうか
それとも詩織先輩が食べちゃうぞ、という事なのだろうか。
どうも後者のような気がする。
僕の気のせいだろうか。
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