第6章 魔女と旅行 ~恋人は魔女?~

第107話 アバンギャルドへの帰還

 8月18日水曜日、朝9時過ぎ。


 久しぶりに実家に帰って約1週間。

 あのアヴァンギャルドな日々は全て夢だったのではないかという気もしてきた頃。

 僕は着替え数点を入れたディパックを背に再び実家を出た。

 電車という正しい文明の利器に詰め込まれ、何度か乗り換え移動する事約2時間。

 待ち合わせ場所の羽田空港第1ターミナルに到着した。

 

 待ち合わせは12時だからあと1時間近くある。

 取り敢えず店でも見て時間を潰そうかな。

 そう思った時だ。

「あ、いいところに来たのです」

 一番アヴァンギャルドな人物に先に発見されてしまった。

 言わずもがな、詩織先輩だ。

 売店の前ででっかい紙袋2つを下げて動けない状態になっている。


「どうしたんですか、それ」

 挨拶より先にそう言ってしまう。

「駅弁代わりの空弁なのです。移動時には弁当がつきものなのです」

 そうなのか?

 とりあえず大きい紙袋2つを詩織先輩から預かる。

 僕が持っても結構重い。

 これ……何個入っているんだ?


「取り敢えず色々な空弁を人数分買ったら動けなくなったのです」

 それから小声で囁くように、

「人が多すぎて魔法を使えないのです」

と追加する。

 普段なら荷物は異空間経由で何処へなりと置ける。

 でも人が多すぎて魔法が使えない。

 なるほどな。

 重いのもそうだが大きさも結構ある。

 むしろ大きさで動きが取れなくなっていた、そんな感じだ。


「さて、荷物持ちも出来たし買い物続行なのですよ」

 えっ、と僕は思う。

 まだ買うの!


「あとは追加分のお弁当と、お茶とつまみとおやつなのです。本日行く場所は山奥過ぎて何も無い場所なのです。備えあれば憂い無しなのです」

 今日は保護者兼監視役のルイス先輩はいない。

 まもなく国際線経由でやってくるとは思うけれど。

 そういう訳で僕は1人で、いきなり詩織先輩の強引な買い物に付き合わされる事になった。


 ◇◇◇


 更に買い物袋を3つ追加したところで約束の時間10分前。

 2階の送迎車の一番端の待ち合わせ現場にたどり着いた時には、既に僕ら2人以外は全員揃っていた。

 しかもバスも到着しており、由香里先輩が会社の人と外回りを確認している。


「すまない、ちょっと考えればこうなる事は予想できたのに」

 いきなりルイス先輩に謝られる。

「いえ、別に大丈夫ですから」

「あと詩織、いい加減に……」


「それ、全部食べ物?」

「空港名物空弁なのですよ。お茶におつまみもあるのですよ」

「あ、じゃあお弁当選んでいいの?」

「とりあえずご苦労様の運転手が第1選択権を持っているのですよ」


 ルイス先輩の苦言は魔女達のそんな台詞に阻まれる。

 うん、これが平常運転だな。

 この世界に完全に帰って来てしまったか。

 そんな実感がひしひし。

 そしてバス会社の人と話し終わった由香里先輩がこっちに向けて言う。


「さて、出発よ!皆乗って!」

 そうして夏の旅行がスタートした。

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