第106話 典明の弁明
パンを貪り食べていてふと思い出す。
「そう言えば典明、いつから精神感応系なんて魔法を使えたんだ?」
長い長いソーセージパンを食べていた典明がこっちを向く。
このソーセージパンもなかなかに凝った逸品だ。
何気にデニッシュ生地だったりさ。
「精神感応系?あ、あの昨日使った奴か」
典明はパンを一口かじって、そしてまた口をひらく。
「あれは検定魔法、要は拙者が最初から持っていた『構造とか成分とかを分析する魔法』の一種だ。物に軽く応力を加えて反応を見る魔法。前は指を触れないと出来なかったが魔法に慣れたのと若干魔力が増えたのとで出来るようになった。それだけだ」
「それのどこが精神感応系の魔法なんだ?」
典明はソーセージパンを食べきって、サンドイッチに手を伸ばしながら答える。
「吾輩にとっては人間も物も変わらないのだよ。というか対象によってわざわざ魔法の名前や種類を分ける事を小生が理解できない、というのが世間側から見て正しいのだろうか。
例えば機械の修理魔法を人間にかければ治療魔法になるだろう。勿論生物だから少しは違うという意見もあるだろう。でも物だって性質によって少しずつ修理の方法は違う。特に生物だからと言ってわざわざ扱いを変える必要は無いだろう。
少なくともミーはそう思う、というか儂には違いがわからない」
「前に恋愛対象は自由だと言ったのと同じようにか」
「同じだな。小生には分類したり分けたりする理由や必要性がわからないのだ。
無論自分なりの好みとかは存在する。でもそれはあくまで拙者の好みであって、人類全体がそうであるという保証は無い。ならば対象は色々な可能性がある訳だ。それをわざわざ分類したり限定したりする理由が小生には理解できない」
なるほど。
何でも出来るが故に差別しないし違いも気にしない。
言われてみれば実に典明らしい理屈だ。
「ただ自分の好みはあるからな、例えば今日のパンは購買とかスーパーの袋入りと比べると段違いに美味いとか」
「逆にそれくらい自由に考えられれば、今の僕の魔法ももっと進化するかな」
今のところ対象を熱するという電子レンジ的にしか使えない僕の魔法ももっと自由自在になるのだろうか。
「答はイエスともノーとも言えないんだろうな。その方向性もあるし、それ以外の方向性もきっとある。きっと方法なんて無数にあるんだろう。同じ場所にたどり着くにしても。
でもどの道を進んでもいつかは同じ到達点には行き着くんじゃ無いか。有限だけれど境界のない空間を延々と同じ方向へと進んでいった時のように」
こいつの例えは時に高度すぎて僕にはわからない。
でも言いたい事は理解できる。
「さて、そろそろ最後のパンを決めないと無くなるぞ」
そう言われて僕は残りのパンがかなり少なくなっている事に気づく。
慌てて取ろうとしたが……どれがいいかな?
そう思った僕に詩織先輩が尖った凶器のようなパンを渡してくれる。
「取って置きの部分なのですが今回は譲ってあげるのです。前田パンのバゲットフランセーズの端の部分なのです。個人的にはフランスパンの中でもピカイチだと思うのです」
一見ガチガチのパンのしかも端っこ部分。
お子様が残してしまいそうな部分だが、詩織先輩がそう言うからには食べてみる価値があるのだろう。
堅さはまさにパキッ、ガチガチの世界。
でも口に持ってくる前から既に香ばしさが感じられて、かじると一気に粉の風味が広がる。
塩加減もちょうどいいし、噛めば噛むほど粉の甘みというか美味しさを感じる。
うん、確かにこれは逸品だな。
「確かにこれは美味しいです」
「私はコッチの方が好きだけどな」
横で愛希先輩がさつま芋がたっぷり載ったデニッシュを食べている。
「あ、確かにそれも美味しそうですね」
あ、ハード系ばかりでデニッシュ系を食べ忘れたな。
今度は試してみよう。
そう思ったら愛希先輩がすっと魔法で食べているデニッシュを半分に切る。
「良ければ食べてみるか」
「あ、すみません」
遠慮無く貰って口に運ばせてもらう。
「確かにこれ、美味しいですね」
「だろ」
そう言って笑顔の愛希先輩を見てふと気づく。
今思い切り愛希先輩が口をつけたところから食べてしまったな。
これは間接キスでも上位級なのでは。
あ、意識したら危険かも。
愛希先輩もなかなか可愛いし。
しかも親切だし常識人だし他の性格も結構好みだし。
いかんいかん。別のことを考えよう。
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