第102話 旅行は何処にしましょうか

 8月6日金曜日。

 例年8月9日から夏休みだそうなのだが、今年は7日が土曜で8日が日曜。

 本日が夏休み前最後の登校日になる。

 なお夏休みの開始が南国の癖に遅いが、その分新学期が始まるのも遅い。

 今年は9月27日から学校開始だ。


 この期間、島を出る学生も多い。

 他にも内地で免許を取ったりとか。

 早い学生は金曜午後の最終便で既に島を出ていたりする。

 でもまあ僕は刀を作ったり魔法の特訓をしたり、挙げ句の果てには20人分の飯を作っていたりする訳で……

 まあこれもなかなか楽しい訳だ、実際は。

 それに家に帰ってもどうせやる事は無いしさ。


 という訳で今日のメニューは蒸し豚と蒸し鶏を中心とした冷たいメニュー色々だ。

 蒸し豚蒸し鶏の他には細切りのキュウリ、パパイヤ、蒸したニンジン、蒸したもやし、湯通しして冷やした揚げ豆腐、ゆで卵といった感じ。

 他に鶏と野菜のココナッツミルクスープ、明太子を和えたじゃがいもも付ける。

 ソースはごま風味棒々鶏風とネギ醤油風と2種類。


 スープ以外は全て冷たいメニューだ。

 これも冷気を操る魔法使いがいれば簡単に作れる。

 今回は愛希先輩が冷却魔法の練習という事で手を貸してくれた。

 何かと便利でいいな、魔法って。


「さて、今日は食べながら北海道で観光したい場所を決めるわよ」

 由香里先輩からそういう話が最初にあった。

 という訳で今日はホワイトボードが出ている。

 なお板書係は必要ないとの事だ。


「いただきます」

 を唱和してご飯を食べ始める。

 すると何処からか出現した全身真っ黒な小人が、投票された紙を見ながら板書を始めた。

 あれは一体何の魔法だろう。

 魔力を辿ると黒魔女……世田谷美南先輩だ。

 この人の魔法はいつ見てもよくわからない。

 闇魔法とは聞いているけれど、それこそ色々な種類の事が出来るようだし。

 最近は近距離空間移動も出来るらしい。

 もうすぐ東京へ行ける!とか言っていたし。


 さて、黒い小人は黙々と板書を続ける。

  ① 網走監獄

  ② 宗谷岬

  ③ 札幌藻岩山で夜景

  ④ 利尻島か礼文島でウニ丼

  ⑤ 稚内でタラバガニ

  ⑥ 根室付近で花咲ガニ

  ⑦ 北見枝幸でカニ三昧

  ⑧ 釧路和商市場で勝手丼

  ⑨ 帯広で豚丼三昧

  ⑩ 小樽でスイーツ三昧

  ⑪ 小樽で寿司三昧

  ⑫ 石狩のサーモンファクトリー

  ⑬ 札幌ラーメン横丁


「何か食べ物ばかりだね」

「確かに」

 愛希先輩の言葉に思わず頷く。


 ここでは場所と食べたいものを書くのがデフォルトだったのだろうか。

 観光とはすなわち食べることなのだろうか。

 網走監獄と書いてしまった自分の常識が恨めしい。

 いや、他に思い浮かばなかったんだ。


「愛希先輩は何を考えた?」

「藻岩山で夜景。函館の夜景と比べてみたくてさ」

 この人もまっとうだ。

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