第101話 厳しく楽しい個人授業
「今の朗人ならある程度魔法で内部で何が起きているかがわかると思うのですよ。だからよく観察してみるです」
僕はこの前貰った杖を取り出し、軽く構えてみる。
焦点はふわっと機械の全高をカバーするように。
その状態で見てみるとなるほど、細部はともかく大まかな流れは理解できる。
「一度完全に溶かして魔法で鉄を抽出しているんですね」
「それが第1過程なのです。鉄以外にも使えそうな材料はここで抽出させるのです」
そしてゆっくりととかされた純鉄に近い鉄が移動していく。
「ここで半分は軟鉄として使う為に分けるのです。まあ分ける配分はここのバルブで調整できるのです」
そして軟鉄側に分けられた鉄は更に不純物を抽出した上で板材加工の工程へ。
鋼側は……何やら色々面倒な事をしているようだ。
一度微粒粉末にした後、更に他の材料と合わせて熱を加えて叩いて……
「これは成分調整部分ですか」
「そうなのです。1095、青紙1号、青紙スーパー、SKD11、M-2、ATS-34、ZDP189等色々参考にした結果、今の配合を作っているのです」
さらに次の過程は……
「これって、冷やして熱して叩いているんですか」
良くわからないがそうとしか言い様がない感じだ。
「そうなのです。鋼の刃部分に必要な硬い組織を作る為にそうしているのです。
魔法で自動的にそういった組織を作る方法がわからなかったので原始的な方法を使ったのです。これで出来た組織を魔法で片側に無理矢理寄せる事で、刃用の部分を作っているのです」
あとは魔法で無理矢理大きさをそろえて板材の形にするだけ。
そして出来たての鋼と軟鋼の細い板材が出てくる。
「あとは朗人の知っている工程なのです」
切って接合して叩いて形を整える、か。
なるほど、この刀の材料作成機の存在こそがここの刀作りの心臓部という訳だ。
これがあるから僕程度でもそれなりの刀を作れる。
「でもこんな機械、作るのは大変だったんじゃないですか」
機械と言っても全体は土を焼いたような素材で作られている。
しかも全長7メートル位、幅3メートル位と巨大だ。
どうやって作ったかは想像も出来ない。
「ある程度刀を作り込んだ時点で、材料を何とかしないとこれ以上のレベルにいけないと気づいたのですよ。それで色々試行錯誤して、最終的にこうなるまで1年かかったのです。
最後はもう自作できないので修先輩を連れてきて、香緒里先輩に修先輩を乗っ取ってもらって作ったです」
ああ、昨日の片付け用大魔法と同じようなシステムか。
「ただ本当はもう少し先の素材が目標だったのです。1つの鋼材に硬い部分も柔らかい部分も全部含まれていて、そのまま刀を作れるようなものが目標なのです。でも成分そのものを同じ素材の中で不均質に変化させる方法が難しいので研究中なのです。
もしかしたらそれが朗人か次の世代の課題なのです」
うわっ、いきなり強烈な課題を押しつけられたぞ。
「でもその前に、まずは今の素材できちんと売り物になる刀を作る特訓なのです」
という訳で、僕の刀作りの特訓がスタートした。
何となく打つのでは無く、斬る動作に最適な曲線とかそういった座学的な知識も込みでだ。
まさか刀作りにクロソイド曲線が出るとは思わなかった。
しかも僕はまだ数学Ⅰの途中までしかやっていないのに、切断動作時の力学分析とかで微積の話まで出てくるし。
「でも強化系魔法使いはこの刀でコンクリの壁も切断するのですよ。なので力学的解析は不可欠なのです」
斬鉄剣は漫画の中だけの物じゃ無かったのか。
という訳で詩織先生による、授業より厳しい授業が始まってしまった。
ただ詩織先輩とこうして2人であれこれやっているとやっぱり楽しいのも事実だ。
やっぱり詩織先輩は可愛いし、色々好きだなあと思ってしまう自分がいる。
技術も知識も先輩として確かだし頼りになるし。
小さくて体型的には中学生程度だけれど。
詩織先輩にはルイス先輩という彼氏がいるのは勿論知っているし認識もしている。
それでも、やっぱり。
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