第100話 何かと手当が厚いです

 つまり過去の旅行で気に入ったところを無茶廻りするというプラン。

 僕らは今年初めてだから具合はわからないが、説明を聞く限りではそんな感じだ。


「あとは8月7日土曜日が強制労働の予定なのです。

 8月9月分を一気にやるので1日仕事の予定なのです。その分時給ははずむと大番頭が言っているのです」

 これまでが半日5時間で5万円だったが、もっとはずむのか。

 こんなのを普通のアルバイトをしている学生に知られたら怒られそうだな。


「これって費用、無料ですよね」

 青葉が念の為、という感じで尋ねる。

「学生会幹部は自動で株主なので無料なのです。

 実は会社に登録の上3回働くとボーナスとして5万円額面1株が贈与されるのです。株主には年1回の配当金の支払いの他、年2回の旅行がサービスでつくのです。

 いかに必要経費を多くして税金を少なくするか、大番頭の努力の成果なのです。

 詳しくは6月に渡した書類に書いてあるのです」


 いいのだろうかこんなんで。

 一般の苦学生が泣くぞ。


「ちなみに自由行動の際の昼食なんかは」

「当然会社持ちなのです。後でレシートを持ってくれば修先輩が払うのです」

 何かもう至れり尽くせりだな。


「でもこれを一番利用しているのは詩織先輩だよな。駅弁を人より3個位多く買ったり、レストランでも3倍注文したりしてさ」

「使えるべきものは使うのが賢い消費者なのです」

 何か違う気がする。


「それで小樽でのスティ中に特に行きたい処があれば明日までに考えてきて欲しいのです。明日保養所で案をまとめて皆で考えるのです」

「夜の野湯探検はまた行くんですか」

 理奈先輩が尋ねる。

 何だ、野湯探検って。


「あれは評判が良かったので今年も天気が良かったら行くのですよ。だから案に書かないでいいのです」

 何かまあ、色々とありそうだ。


「行きたい場所の制限等はありますか」

「日本のナンバーのマイクロバスが走っておかしくない場所ならいいのですよ」

 何だそのいい加減さは。

 距離の遠近は無視か。

 まあ詩織先輩の魔法を使えばそうなんだろうけれどさ。


「さて、他に何か質問等はありますか」

 あとは特にないようだ。

「では本日はこれで解散」

 という訳で僕は工房の方へと向かう。


 ◇◇◇


 今、僕が工房でやっているのは刀の製造の練習と研究だ。

 僕が最初に作った刀は従来の日本刀の製法とは大分異なった作り方をしている。

 どちらかというとナイフの作り方に近い。


 例えば

  ○ 材料の鋼の時点で既に急冷・鍛造しなくても刃の元となる鋼の品質が

   完成している

  ○ 材料の鋼を切り出した時点で既に完成品の9割近い大きさの状態

  ○ 従って鍛錬は刀としての形を整える事にのみ気を配ればいい

という感じ。


 日本刀の形をしているし性能は古刀の名刀並みかそれ以上だが、製造過程そのものはナイフや包丁並みの難易度だ。

 これは香緒里先輩と詩織先輩の魔法と研究で作られた特殊な鋼あっての事。

 そして学生会工房の右側に鋼の製造機械というか製造施設がある。


「これが現在の特区における刀作りの心臓部なのですよ」

 と言って詩織先輩が材料の鉄材を入れて炉の入口を開ける。

「材料の鉄はどうせ内部で成分調整をするので何でもいいのです。

 前は日立金属から買った白鋼とか島の砂浜で採取した砂鉄を使っていたのです。

 でも色々改良したので今はスクラップの鉄でも何でもいいのですよ」

 そう言って廃材置き場から持ってきたらしい錆サビの鉄くずを魔法で投入し、蓋を閉める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る