第99話 夏の計画書
お祭りの翌日木曜日午後。
3限終了後、例によって僕らは3人で学生会室に向かう。
試験の結果は今のところ、僕も青葉も何とかなっている。
再試験になると夏休みが一部潰れるし、落とすと落第だから洒落にならない。
ノブを回すといつもの通り学生会室の鍵は開いている。
そして中にはいつもの通り詩織先輩が到着していた。
「今日は会議があるのでここへ集合なのですよ」
見ると各人の机上にA4両面刷りの紙が1枚ずつ置いてある。
タイトルは『薊野魔法工業株式会社 株主及び社員旅行のご案内』となっている。
「議題は夏の旅行計画なのです」
僕はいつの間に社員か株主になっていたのだろう。
まあ学生会に入ると自動的に株主になるとか、色々怪しいシステムなのだろう。
もういつもの事なので追及はしない。
自席に座ってその紙の内容を読んでみる。
期間は8月18日水曜日から8月24日火曜日
場所は長野県及び北海道……何だこれは?
日程もよく見ると無茶苦茶だ。
1泊目が長野、2泊目が函館、3~5泊目が小樽、6泊目も長野?
移動手段はマイクロバス貸切とある。
思わず文句を言おうとして気づいた。
あ、これは詩織先輩の魔法前提のプランだなと。
そうでなければこんな出鱈目なプランが出来る筈が無い。
「移動は全部バスなんですか」
でも一応聞いてみる。
「今年はマイクロバスを借り切るそうなのです。由香里先輩は大型免許持ちなので。だから残念ながら電車移動が無いのですよ。駅弁が食べられないのです」
という事は去年までは電車等で真っ当に移動していたという事か。
読んでいる間にも他の学生会の面子が続々と到着してくる。
「あ、旅行のお知らせが来ている」
「今年は……無茶苦茶ですね」
「誰の好みを何処に入れたか、よくわかりますわ」
色々と意見が出ているようだ。
最後にルイス先輩がやってきて席に着いたところで、副会長で進行役のソフィー先輩が口を開く。
「それでは学生会幹部会議を開催しますわ。議題は夏の旅行の件です。
その前に伺いますが、皆さん試験の方は大丈夫ですね」
誰も動きは無い。
一応大丈夫なようだ。
「それでは再試験の方がいないという前提で話を進めます。まず、今年の旅行の概要について詩織さんからお願いします」
「それでは説明するのですよ」
詩織先輩がそう言って立ち上がる。
「まずはこのパンフを見て欲しいのです。旅行先を決めるのに、今年のOB会は少し揉めたのです。
具体的には由香里先輩翠先輩の美味いもの食べたい派と、朱里先輩風遊美先輩香緒里先輩の温泉原理主義派が一歩も引かなかったのです。
更に由香里先輩がせっかく取った大型免許を使いたいとだだをこねたのです。
結果、最初と最後が温泉、真ん中が北海道というプランになったのです。駅弁食べたい派は無視されたのです」
詩織先輩は駅弁食べたい派らしい。
「具体的には羽田空港に12時集合、そのままマイクロバスで長野の穂高まで行く予定なのです。ここの温泉は3年生以上は行った事のある温泉なのです。飯は普通ですが温泉、それも露天風呂がいっぱいあるのです。熱湯が吹き出しているところで温泉卵や豚汁を作ることも出来るのです。
2泊目は函館の普通の温泉ホテルなのです。去年と同じなのです。まあ普通にいいホテルで飯もうまいのです。
3泊目からは貸別荘を借り切るのです。これも去年行ったのと同じ場所同じ貸別荘なのです。
最後の夜は長野の温泉街の民芸品のような宿なのです。これも3年生以上は知っている宿なのです。料理は田舎くさいですが宿そのものが民芸品みたいで楽しいのです。外湯巡りも出来るのです。
最後の宿を10時過ぎに出て、横浜の外れでバスを返却するのです。それで島へ戻る組は直接私と戻ってきて終わりなのです」
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