第97話 任務完了!

 健闘2時間。

 ついに材料となる魚の身が無くなった。


 詩織先輩が先程

「これが最後の補給なのですよ」

と持ってきたトロ箱の中身ももう汁しか入っていない。


 愛希先輩が『完売』と大書したメッセージボードを作業台の上に出す。

 何か向こう側で文句が聞こえたような気がするが気にしてはいけない。

 僕の右腕も限界だ。

 筋肉がもうぷるぷるしている。


「愛希先輩どうも有り難うございました」

 僕は愛希先輩に頭を下げる。

「いや、頑張ったのは朗人だろ。私は言われるままに手伝っただけだしさ」


 でも愛希先輩の魔法が無ければもっともっと大変だったはずだ。

 今回は鉄板で焼き物を作ったので、鍋を傾けてタレをからめる等の技は使えない。

 なのでヘラでタレを回しかけたり、ブリの身とタレ双方に小麦粉を振ってとろみが出て絡みやすくする等の小細工をしている。


 そうすると当然焦げやすくなる訳だ。

 でも愛希先輩がいれば魚の身にほどよく焦げ目をつけたりとか、中まででギリギリ火を通したりの小細工もやり放題。

 最悪鉄板が焦げても焦げもろとも焼き尽くしてすぐに使用可能にしてくれる。


 さて、見ると揚げ物組も完売札が出ている。

 煮物組は一番無くなるのが早かったし、あら汁・魚汁グループも既に解散。

 刺身も多分今出ているのが最後だろう。


「悪かったな、何か最後まで作業させて」

「いや、大盛況でよかったです」


「まあ今回は事前にひととおり料理を食べられたからいいか。あの半生マグロカツは旨かったな」

 半生マグロカツとはマグロのさくにたっぷり衣をつけ、高温で素早く揚げた代物。

 外はカリカリなのに中はまだ生。

 バルサミコ風味のソースをかけて食べるのが個人的なおすすめだ。

 なお愛希先輩はサクを切らずに1本食べしていた。

 専用のソースだけで無く、タイ風味魚のスープに浸したりもして。


 ふっと背後に気配が現れた。

 詩織先輩だ。

「ここに残っていると追加の料理を請求されるのです。脱出なのです」

 その台詞とともに辺りの風景がぼやける。

 そしておなじみの浮遊感。

 着地したのは体育館の隅の方のテーブルだった。

 おなじみ学生会の面子が勢揃いしている。


「お疲れ様。最後まで大変だったな」

 とルイス先輩。

 やっぱり焼き物組が最後だったらしい。

「朗人、右腕出してちょうだいな」

 沙知先輩に言われるままにぷるぷるしている右腕を前に出す。

 あ、一気に楽になった。


「ありがとうございます。大分楽になりました」

「これで筋肉痛にはならないと思うわ」

 色々な魔法があるものだ。

「しかし今年は5割増しで魚を用意したのに、2時間がやっとだったな」

 えっ、そうだったのか。

 てっきり毎年これ位の量を捌いているかと。


「今年は魚を捌ける人も2人ですし、朗人君がメニューを増やしてくれたから大分増量したんです。でも去年以上に売れ行きがよかったですね」

 とソフィー先輩。


「とするとまさか、来年は今以上に……」

「典明に魚の捌き方と付与魔法系を頑張って貰って、青葉に冷却用の魔法も覚えて貰う。あとはまあ朗人がいれば問題無いんじゃないか」

 愛希先輩、それは甘い。

「搬送担当はどうするんですか。詩織先輩の魔法の代用は無理ですよ、きっと」


「それはまあ、香緒里先輩に営業車を借りるしか無いのですよ」

 あ、詩織先輩、逃げた。


「いや中身入り500キロ以上の鍋なんて、荷台に上げるの不可能ですから」

「何なら空飛ぶ漁船と同じように空飛ぶキッチンスタジアムでも作るか。そうすれば来年のセットも楽だろう」

「何ですかその汎用性に欠ける巨大浮上施設は」

 そう言ってふと気づく。


「そう言えばこの後、片付けはどうするんですか」

 結構汚れている場所も多いし鍋も重いし大変だぞ。

「ああ、それは世界最強の魔法使いを呼ぶから大丈夫だ」

「準備はともかく、片付けは楽ですよね、あの人達がいれば」

 まさかゼットントリオより更に強大な知られざる魔法使いがいるのだろうか。

 これ以上魔力インフレを起こしてどうするんだ。

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