第96話 祭りの準備

 高専生にとっての試験結果は普通の高校生と比べ遙かに深刻かつ重大な問題だ。

 何故なら学科1つでも落第したら留年決定。

 魔法工学科の今の2年生は入試合格後の入学手続者の人数108人。

 昨年4月に合格者と留年者あわせて117人でスタートしたが今年7月現在の人員は91名。

 落第して志半ばで落胆し、学校を去る者が多いのだ。

 これでも他の高専に比べれば落第者は少ない方とのこと。


 絶対評価で落第点を出す事は何としても避けなければならない。

 まあ落第して学校を去った後高認を合格し、更に魔技大に入ってかつての同級生と同じ学年になったという強者もいたらしいけれど。


 先週で期末試験が終わり、今週は試験返却及び内容解説の特別授業。

 毎日じわじわと返却されてくる試験結果。

 いまのところ僕には”ちょっと失敗したかな”程度はあるけれど致命傷は無い。

 金井もまあ、一応大丈夫なようだ。

 典明は学科トップ爆走中なので比較してはいけない。

 あいつも”ミスしなければ満点”の世界の住人だから。


 そういう訳で水曜日、試験解説授業を無事に終え、3人ダッシュで学生会工房へ。

 そう、今日は祭りだ。

 準備に使える時間は1時間。

 結構短い。

 既に詩織ちゃん先輩が先着していた。

 他はまだのようだ。


「あ、1年生3人は会場で待機していて欲しいのですよ。鍋や調理関係の配置を確認していて欲しいのです。こっちからは必要があればSNSで連絡入れるです」

 との事で体育館へ。

 こちらは既に学園祭実行委員によってある程度舞台設営が出来ていた。

 試験期間中で体育館を使わないので、月曜火曜にある程度やっておいたようだ。

 うちの学校にはバスケ部とか無いからな。


 鍋の位置や急造キッチンの水の確認、備品等のチェックを行う。

 と、スマホが振動した。

「これから鍋の移動を開始するですよ。まずはあら汁からなのです」

 一番の大物だ。


「典明、青葉、あら汁が来るそうだ。近くで万一に備えてスタンバイ頼む」

「了解よ」

「ほいほい」

 2人が配置についたのを確認して報告。


「こっちはOKです。お願いします」

「では送るですよ」

 トン、という音とともにあら汁の鍋が出現する。

 体育館の床防護用に敷いたコンパネの上にぴたりと停止。

 液面が少し揺れているかな程度の完璧な移動だ。


「続いて他の鍋も行くです」

 連続してタイ風味汁の鍋、煮物鍋等々出現してくる。

 しかし詩織先輩のこの魔法、便利だよな。

 引っ越し業者の3部隊分位は余裕で1人でこなせるのではないだろうか。

 学生会の他のメンバーも続々やってくる。

 そしてルイス先輩がやってきた。


「朗人まだまだ早いがそろそろ頼む。実行委員の外配置組等なんかは時間中は食べられないから、今のうちにある程度作って食べて貰おう」

「了解です」

 という事で揚げ物組、焼き物組、刺身組とも調理開始。

 今日は僕は愛希先輩を相棒に焼き物専念。

 本当は揚げ物側も様子を見たいがその余裕は無いだろう。

 まあ中身がレアの半生カツ以外はそれほど神経質なものもないし、揚げてソースかけるだけだから大丈夫だ。


「愛希先輩、それでは宜しくお願いします」

「朗人、こちらこそ頼むな」

 そして実戦が始まる。

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