第94話 メインの魚は膨大です
漁船帰還前に詩織先輩は魚用と書いたトロ船をだっと前に並べる。
計20を超えるトロ船が工房前のコンクリートのたたき部分だけで無くアスファルト部分まで広がった。
「愛希、全部とりあえず清掃お願い」
「あらよっと」
愛希先輩は杖を構え、そして大きく杖を振るう。
一瞬感じる強烈な熱気。
「やっぱりこれが使えると便利よね。朗人にも頑張って習得してもらいましょう」
と沙知先輩は言うが、こんな魔力は僕には無い。
そして飛行漁船は今日は少しだけ校門側の方へ着陸する。
工房前を目一杯使えるようにという事のようだ。
いつものように漁船から人力で魚を下ろすのでは無く、詩織先輩が片っ端から魔法でトロ船へと魚を移動させていく。
えっ、えっ、えっ、えええええええ……
どれだけ捕ってきたんだよ、と言いたくなる。
丸々としたでっかカンパチやらマグロやらが、トロ舟10台に並んでいる。
これは完全に漁業だろう。漁業権はどうした大丈夫か?
どう見ても通常の魚釣り大会の3倍近くは捕っている。
これが本気モードの先輩達の実力なのか。
洒落にならない。
「これから捌きますが、刺し身以外の料理に使う際の希望ってありますか?」
美雨先輩が聞いてくる。
「頭、内臓、骨を含む他のあらと、サク以外を3つにわけていただけると助かります。頭は縦に半分割りで。あと巨大アジのうち1匹だけは腹開きで背を付けたままで。あえて頭もそのままで願います」
「わかりました。アジフライ用ですね。」
そして巨大な作業台を前に出し、魚を捌く作業が始まる。
ルイス先輩の魚捌きは動きがなかなか綺麗だ。
まるで武芸者のように刃の長さと尖りを使って切り刻むという感じ。
魚捌きであっても何か正当な武芸を感じさせる。
一方、美雨先輩の魚捌きはきっと魔法だ。
無造作に刃を滑らせているようにしか見えない。
それでもうろこは全てギリギリかつ確実に取れているし、骨部分に残っている身は冗談みたいに薄い。
ルイス先輩のが”肉塊を斬っている”感じなら美雨先輩のは”組み立てられているのを分けている”感じだ。
それなのに切り口は冗談みたいに綺麗。
普通じゃ無い。
やはりきっと何かの魔法なのだろう。
魔法を使っている感じもするし。
僕の方も見ているだけでは無い。
出たアラを水につけて血を抜いたり血を抜き終わった頭に塩と酒を振ったり、内臓部分をちまちま洗ったりとまあそこそこ忙しい。
1人では忙しいので典明に下請け作業をやってもらっている。
あと、3年の愛希先輩と理奈先輩にもガンガンに手伝って貰っている。
下ゆでしていた大根の水を替えてもらったり。
ブリの切り身をさっと湯通ししてもらったり。
この2人が居ると水を入れる、水を抜く、茹でる煮る、冷ます全てが出来て強烈に便利だ。
夢中になって動いているうちに大量にあった魚類の下処理は全て終わっていた。
「とりあえずきりのいいところで昼食にするですよ」
詩織先輩がそう宣言する。
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