第93話 大胆・高速!魔法調理!

 メニューが決まれば早速準備開始だ。

 出来るのは大根の皮むきと下ゆでからかな。


「料理に使っていいのはこの作業台?」

「あ、その作業台は魚の解体に使うので、折りたたみの机でお願いします」

 という訳で奥から折りたたみ机を出す。

 空いている60センチ鍋を両手で必死に持って移動し、水道で洗おうとしたところ。


「朗人は指示してくれればいいのですよ。適した魔法を使える人がサポートするですから」

「でもまだ僕は1年ですし」

「そんな事を気にする事は無いのです。出来る人がやればいいのです。という訳でこの小さい方の寸胴、洗っておけばいいのですか」

 うーん、詩織先輩とは言え4年の先輩にお願いは微妙にしにくいな。

 でも、まあ、本人が言うから仕方ないか。


「ではすみません、お願いします。洗った後は1つの鍋に10センチ程度に水を入れておいて下さい」

 結局頼んでしまう。

「了解なのです。では」

「私と理奈で大丈夫だな。詩織先輩、適当な位置に鍋を頼む」

「了解ですよ」

 と自動的に向こうで何やら始めたようなので、僕は次の過程へ移行。


 典明と折りたたみ机2つを作業台と反対側の表に近いところに移動させ、まな板をセットする。

 ちらっと見ていると鍋の洗い方は強烈かつ強引だ。

 工房前の広い場所に詩織先輩が鍋を魔法で移動させ、その内外に愛希先輩が何やら魔法をかけている。

 きっと以前に見た『掃除用燃焼魔法、何でも燃やして綺麗にします』という奴だ。

 そして理奈先輩が鍋の1つに氷柱を発生させ、それを魔法で溶かす。

 あっという間に僕の注文、綺麗に洗った水入り鍋の完成だ。

 魔法の無駄遣いという気もしない訳ではないが、確かに早くて手っ取り早い。


「次は何をするのですか」

「大根を洗って皮をむいて、厚さ2.5センチに切って今水を入れた鍋に入れる作業です。大根の数は切った1個が1人分として1000個分です。鍋の3分の1を超えたら次の鍋に入れて下さい」


「ならこれは愛希と理奈とロビーなのです。という訳で大根を出すです」

 詩織先輩がそう言うと同時に先輩の前のコンクリートのたたきにドン、という感じに大根の山が出現する。

「大根の葉っぱ部分はどうすればいいのですか」

「洗って1センチ位の長さに切って、適当な入れ物に入れておいて下さい。後で色々使いますから」


 何かもう、僕も典明も半ば自分でやる気を無くしながら魔法調理を見ている。

 非常に派手かつ魔法の無駄遣いの気もするが、確かに速く大量に処理が出来る。

 ただこれ、料理と言っていいのかなあ……

 少し疑問は残るけれども。


 大根の山が竜巻のような水流に巻き込まれてぐるぐる回っている。

 水流で高く上げられつつ綺麗になった大根は、落ちてくる間に熱魔法で表面の皮部分だけを焼かれ皮がむかれた状態になる。

 さらに熱線でおそらく正確に2.5センチ幅に切られ、最後にロビー先輩の工作魔法の応用によりそれぞれの鍋に仕分けられていく。

 全てが終わった時には4つの中型(一般的に見ると超大型)寸胴4つに、それぞれ切った後の大根と大根の葉が入っている状態になった。

 何だこの速さは。


「毎年魚祭りのあら汁作りで魔法を鍛えているから、これ位は楽勝なのですよ」

 何かもう圧倒される。

 いや僕落ち着け。

 これはきっと魔法使いでも一般的な魔法の使い方じゃ無い。

 魔力を持て余している常識外の怪物の集団だから出来るんだ。


「まもなくルイス先輩が戻ってきますわ」

 沙知先輩の声とともに南の空に浮かぶ見慣れた違和感の塊が目に入る。

 怪物の集団を束ねる苦労性の会長のお帰りだ。

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