第87話 魔法使い僕、爆誕!(2)

「本当の魔力訓練具だったんだ……」

「当然なのですよ。世界初の魔法使い養成機なのです」

 半ば絶句状態になっている典明に当然のようにそう言い切る詩織ちゃん先輩。


「という訳で、実際に魔力を発現した今となってはこの訓練具は危険なのです。それに論文化のデータも取るのでしばらくこれは預かるのです」


「それでお願いが一つあるのですが、いいですか?」

 詩織ちゃん先輩は僕の方を見る。

「何なのですか?」

「データとか取り終わった後でいいですから、出来ればこの招き猫、記念にいただけますか。勿論中の機械類は危険なら空でいいですから」


 正直なんとなく手放しがたく感じたのだ。

 さっきまでその存在を忘れていた癖にと言われてしまいそうだけれども。

 なんやかんやで詩織ちゃん先輩に貰ったものだし。

 それに僕を魔法使いにしてくれた道具でもある。

 そう思うと何かこう、大事にしたいような気もする訳だ。


 詩織ちゃん先輩はにこりと笑う。

「いいのですよ。内部の機構は変わってしまいますけれど、できるだけ早くお返しするのです」


「詩織先輩、その魔力訓練具って他にも作れるのでしょうか」

 美雨先輩がそう質問する。

 そうだ、これを量産すれば魔法使いの人口が一気に増えるかもしれない。

 でも詩織ちゃん先輩は首を横に振る。


「残念ながらそれは出来ないのですよ。この中には日本の特区以外は持ち出し禁止の機構が幾つも入っているのです。魔力電池とか増幅機構の一部とかはその情報すら特区内でも限定公開となっている代物なのです。権利者が修先輩や修先輩の先生等なので使えるだけなのです」


 本当に新理論と新機軸を組み込んだ最先端の逸品だった訳だ。

 気にせずバッグの裏側に付けっぱなしにしていたけれども。


「そういう訳で、朗人はちゃんと魔力を使えるようになるまでこの杖で練習なのです」

 そう言って詩織ちゃん先輩はどこからともなく杖を出す。

 あの最強の金属製の杖とかそれに近い性能の木製の重厚な杖とは違う。

 白っぽい材質の木製の杖だ。

 蔦がからまった木の棒にリボンが巻かれ、頂点に松ぼっくりのモチーフが飾られている。


「生命の杖テュルソスの初心者用バージョンなのです。威力は無いですが特性が素直で使いやすい杖なのです。これを使いこなしたら次は上級品をプレゼントするです」

 杖は妙に手にしっくりくる。

 さっきと同じように集中してみようかと思って思いとどまる。

 本当に炎が出たら洒落にならない。


「まあ火の魔法については愛希に教わるといいのですよ。刀作りの訓練と合わせて日々鍛えたらいいのです」

 ああそうだ。

 刀作りも最近やっていなかった。

 このためにここに入る羽目になったというのに。

 まあ課題やらテストやらやる事が色々多すぎたせいもあるのだが。


 でも魔法を使えるようになったなら、少しは試してみたいな。

 まあ今は多分大した事は出来ないのだろうけれど。

 でも室内だと危ない。

 何せ覚えたての魔法だからどうなるか全くわからない。

 そんな事を考えていると。


「朗人、ちょっとこっち」

 南向きの掃き出し窓の方で愛希先輩が手招きしている。

 何だろう。

 僕がそっちに向かうと愛希先輩は掃き出し窓を開ける。


「どうせなら今がどれくらいか、試してみたいだろう」

 あ、わかっていらっしゃる。

「お願いします」

「こっちだ」

 僕は愛希先輩について窓からベランダへ出る。

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