第82話 先輩の正体

「さっきはすまなかった、申し訳ない」

 屋外での発表を僕と典明が見ている時にそう言って頭を下げてきた小柄な影。

 言うまでも無く上野毛先輩だ。


「いえ、あれで助かったんです。そうしないと僕は嘘の発表のまま終わる事になりましたから」

「そう言っていただけると助かる」

 上野毛先輩はそう言って笑みを浮かべる。


 それで僕もやっと色々飲み込めた気がした。

 あの質問を典明が待っていたかのように見えた理由も。

 きっと上野毛先輩は典明のそんな気持ちに気づいていたのだろう。

 自分の発表に少なくとも今の段階では実現性が無いと気づいている事も。


 だからこそあの厳しそうに聞こえる質問を投げた。

 あの厳しい質問はきっと先輩から典明への助け船。

 やっぱり色々ハンサムな人だ。

 ちっこいし胸も無いけれど。


 上野毛先輩は典明と話した後、僕の方を見る。

「本当は君の飛行機械についても色々突っ込みたかったんだけどな。

 でもまあ、突っ込む前に何となくわかったからもういいかな」

「何が、ですか」


 それにしても口調が今の調子だと声だけなら本当に男だよな、声も男声に近いし。

 そう思いながら聞き返す。

「君の機械が浮力調整具を使わなかった事とあえて不安定な機構を作った事」

 上野毛先輩はそう言って微笑む。


「浮力調整具を使わなかった理由は簡単だ。君はきっと気づいたんだね、浮力調整具が一般的な魔法部品で無い事に」


「ええ」

 僕は頷く。

「屋上の展示を見て気づきました」

「それはなかなか優秀だね」

 彼女はそう言って頷き、続ける。


「あとあの機械が二面性を持っている理由も何となくわかった。

 全部を外側で高い位置に配置しないでわざといくつかを不安定な配置にした理由。

 あれはきっと君自身の二面性の表れだな」


 その意味は僕にはわからない。

 僕がわからない事に気づいたのだろう。

 上野毛先輩は更に言葉を継ぎ足す。


「今はわからなくてもそのうち気づくさ。

 あの機械の二面性は多分君自身に潜む二面性の表れそのものだ。

 安定を望むように見えて実は誰より冒険を好む。

 それが今後どう出るか、まあ楽しみだね」

 彼女はそう言って一人納得するように頷いた。


 さて、実機の発表は金井の番になっている。

 彼女の飛行機械は簡素な外骨格とそれに装着された魔力感応型のMJ管。

 金井は仮面ライダー級の魔力を使って自由自在にMJ管の出力を操り、空を舞う。

 その動きは見ていて面白い位自由だ。

 まるで器具無しに本当に自由に飛んでいるように。


「あの飛行外骨格、確かに自由自在に空を飛べるし良く出来ているんだけれどね。

 そこはかとなく詩織の影が見えるような気がする。気のせいかな」

 あれ、詩織ちゃん先輩の名前が先輩の口から出てきた。

 知り合いなのだろうか。

 でもなかなか鋭いな。


「あれは確かに詩織先輩が制作を支援しています。詩織先輩とお知り合いですか」

「まあね」

 僕の質問に上野毛先輩はそう軽く返す。

「詩織は研究室の後輩のようなものさ。まあ代が違うから直接授業でやりとりはしないけどね」


 不意にひくっ、と典明がけいれんでもしたように体を震わせた。

 そして何故か典明は後ずさりする。


「ひょっとして上野毛先輩、いや、オスカーさんですか」


「そうだよ。ひょっとして詩織か修に聞いたかな、僕の事」


 オスカーさん?

 どこかで聞いたような名前だ。

 どこだっけ。

 あ、そう言えば、まさか、ひょっとして……


「あのアンドロイドを作ったオスカーさんですか」

 彼女、いや彼はにやりと笑う。


「ははははは、やっぱり気づいてしまいましたか。

 この姿の時は上野毛先輩ではなくオスカーちゃん。

 そう呼んでくれると嬉しいな」


 僕も遅まきながら全て理解した。

 アンドロイドの性能を持つAI搭載ダッチワイフを作った自動機械愛好会の伝説。

 人間より機械を性愛の対象とする変態。

 その実態は修先輩の同級生の女装子。

 つまり男。

 あああああ、ハンサムな美少女の先輩だと思っていたのに……


「まあさ、修が今年の課題はちょっと手助けしてみたって言うんで見に来たんだ。やっぱりなかなか面白いな。まあ僕は美少女ロボットしか作る気はないんだけどね……」


 そのあたりの台詞はあまり良く聞いていない。

 まさかこんなトラップがあったとは。

 これも特区とか魔法とか魔技高専の洗礼って奴なのか。


 いや絶対違う。

 こんなのありかよ!!!!!

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