第80話 イケメンでハンサムな彼女の質問

 火曜日昼過ぎ、まもなく3限の魔法工学実習がはじめる。

 今回は課題発表の第3回目だ。


「そういえばこの前の三輪のビデオの彼女、なかなか可愛いよな。あれは彼女?」

「単なる学生会の先輩だ。身軽で運動神経がいいのでお願いした」


「本当かよ。実は……ってのは」

「3年攻撃魔法科の戦闘実技筆頭だけれど、良ければ紹介するぞ」


「……やめとく。ちょっと喧嘩して勝てる自信ない」


 僕とか能ヶ谷とか発表が終わって気楽な連中が大教室後ろでまったりしている中、典明や金井が前の方で緊張した感じで座っている。

 金井はまあ外で実機で披露するらしいけれど、典明はここでの発表が全てだ。


 一応宇宙へ行った実証模型1号と2号は持ち込んでいる。

 更に動画やパワーポイント資料まで作っているのを僕は知っている。

 そこまで用意しているのだがやっぱり緊張しているようだ。


 チャイムが鳴る、

 その瞬間、さささっと小柄な影が大教室の後ろ、僕の右側の席に潜り込んでいた。

 綺麗な顔立ち。

 天才にして紙一重と松陰先生に評された上野毛先輩だ。

 また大学の授業をサボって見学に来たらしい。

 まあバラすほどの理由も無いので無視しておく。


 さて、レジュメを見ると今日の教室内発表は典明だけだ。

 締め切りギリギリまで時間がかかった連中だから実作派が多いのはしょうがない。

 田奈先生を始め先生方がやってくる。

 起立礼着席の後、田奈先生からの一言が有り、そしていよいよ典明の出番だ。


 典明が実証模型1号と2号を並べ、そして一礼する。

 そしてパワーポイントによる説明が始まった……


 ◇◇◇


「地上から上空100kmのステーションまでの往復に必要なコストは姿勢調節及び離陸時の安全用の燃料と上昇時に必要な水のみで済みます。

 またステーションからそれ以上先の宇宙への往還については、重力及び空気抵抗の関係から地上からに比べて遙かに低コストで行うことが可能です。

 ステーションについても位置の保持に必要なコストは地上からの往還機による水補給のみで足ります。

 これらにより一度システムが確立されれば今までと比べ段違いに低いコストで宇宙の調査及び開発を行う事が可能になります。

 以上ですが、ご質問はありますでしょうか」


 微妙に典明の声がうわずっているし口調も変だ。

 ただ発表自体はきちんと出来ていたし中身も伝わったと思う。

 そしてなかなか手が上がらない中。

 凄く申し訳なさそうに小さく手を上げた人物が目に入った。

 上野毛先輩だ。


「それでは後ろの方、お願いします」

 上野毛先輩は僕や車椅子の時と違い、何か申し訳なさそうなそれでいてどうしても何か言いたそうな、そんな感じで立つ。


「まずは率直な感想を言わせて貰います。夢の大きさがわかる凄くいい作品です。構想だけじゃ無い。実証機も両方とも実際に宇宙へ往復してきたのでしょう。検定魔法を使えば高熱や電撃や宇宙線を受けてきたのがわかります。

 更に2号機の方はおそらく一度回収に失敗して海に落ちたのでしょうね。内部の機器はほぼ無事なようですけれども。

 繰り返します。本当にいい作品です。だからこそ僕は悔しいし残念なんです。そしてそれはきっと発表している君も同じだと思うのです。

 でもだからこそ僕は聞きます。

 君はきっと途中で気づいたと思います。この計画は今は実行できません。重大な欠陥があります。それに君は気づいています。違いますか」


 一瞬全体がざわつく。

 それは上野毛先輩の同じ学生と思えない質問のせいだろうか。

 それとも率直に今の異議の内容のせいだろうか。

 でも典明は立っている。

 小さく頷いてさえいるように見える。

 そして……


「浮力調整具の製造問題ですね」

「その通りです」

 上野毛先輩も頷いた。

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