第79話 ハンサムな美少女は機械の味方

 松陰先生のその台詞に彼女はにこりと笑う。

「新入生の新しい発想に触れるべく、大学から授業をサボって飛んできました」


 えっ、大学から?

 松陰先生は苦笑している。

「まあお前なら問題はないだろうけれどな。それで何かあったか、参考までに」


「今日面白いと思ったのは2点ですね。でもその前に元研究室の一員として先生にお願いがあります」

 という事は最低でもここの卒業生で大学3年以上の人か。

 詩織ちゃん先輩と同じく年上に見えないけれど。

 まあ上野毛先輩でいいかな。


「何だ。お前の言う事だから場合によっては聞いてやるが」

「この車椅子。採点はこの状態でするとしても、制作者の意図した本来の形に作り直させてやって下さい。これではこの車椅子が可哀想すぎます」


 松陰先生は少し興味深げな顔をする。

「ほう、何故そう思う」

「望まない形をしているんです。設計思想から見て」

 松陰先生は頷く。


「それで」

「望まない形をした機械に本来の形に戻って貰いたい、僕が思うのはそれだけです。無論それで費用助成条件から外れるなら別口の補助を出します。修がそんな事を言うとも思いませんけれど」

 いまの台詞だと上野毛先輩は修先輩の先輩か同級生かだ。

 そして修先輩が補助金の黒幕である事を知っている人間だ。


「でも上野毛、お前制作者本人の意向を全く聞いていないだろう」

「僕は機械の味方です。先生ご存じの通りです」

 松陰先生はその返答に笑いつつ制作者の女子学生に聞く。


「という訳で成瀬、この機械馬鹿がそんな事を言っているんだが、成瀬自身はどうしたい。

 勿論このままでも減点等は無い。作り直しても基本的には点数はそのままだ。だから成瀬がこの件に関してかかる手間に対する報いは……そうだな、この車椅子に対する自分の気持ちと完成品を自分のものに出来る程度だな。

 必要な部品があるなら教官室に早めに言え。貨物船が東京を出るのは明日午後5時だから急げば発注は間に合う。費用は気にする必要は無い。そうだな、上野毛」

「はい。修のところか僕のところで責任を持ちます」


「なら……お願いします。でも、いいんですか」

「僕は単に機械の味方です。それだけ……っと」


 上野毛先輩は時計を見て慌てて立ち上がる。

「4時限目は出席を誤魔化せない授業なので失礼します。では先生お願いします」

 そう言うなり恐ろしい速度で走り去っていく。

 というか絶対あれ魔法を使っているだろう。常人の速度では無い。

 そして残された松陰先生と成瀬さん。


「ところで松陰先生、今のは誰なんですか」

 ふと我に返ったような成瀬さんが尋ねる。

 先生は少し考えてから口を開いた。


「あれはまあ、魔法工学科ここの卒業生だ。今は魔技大にいる。まあ僕が持った学生の中でも天才と言っていい数少ない存在だ。ただ天才だけに紙一重な部分も多くてな」

 微妙に言葉を選びながら喋っているような感じだ。

 何か上野毛先輩に問題でもあるのだろうか。


 でも天才で紙一重というのは何となく僕にもわかる。

 詩織ちゃん先輩と同じような雰囲気があるのだ。

 上野毛先輩は外見も言葉も色々綺麗でハンサムな美少女だ。

 でもきっと、この人もウルトラマンとかゼットンとかの眷属なんだろうな。


 そう僕が思ったところで松陰先生が僕に気づいたようだ。

「ところで三輪、お前はどうしたんだ」

 あ、そう言えば車椅子を見に来たんだ。


「この車椅子のシステムをちょっと見せてもらおうと思ってきたのですが、ちょっと今のを見て……」

 先生には納得して貰えたようだ。

「そうだな。これは今は成瀬に戻した方が良い。急いで改修しないと時間も無いだろうし」


「そうですね」

 そう僕が答えた時、暴走する風のようなものが僕の前を通り過ぎた。

 僕の空飛ぶ機械だ。

 何故か今は青葉、いや金井が乗っている。

 愛希先輩のように宙返りとかこそやらないが、ターンしたり速度を上げたりほぼ乗りこなしている。


 魔法使いとは皆、こんなに器用で何でも出来る奴ばかりなのだろうか。

 思わずため息が出てしまった。

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