第76話 僕の課題発表(1)

「これ楽しいね。出来たらもう1機欲しいな!」

 おいおいおいおい。

 色々な意味で想定外だ。


「それはまあ、後で部品代と相談で。でも良くそんなに直ぐ乗りこなせましたね」

 僕だとゆっくり直進とゆっくり転回で精一杯だぞ!

「スノーボードより楽しいね。トリックも綺麗に決まるし」


 魔技高専が他の高専のスポーツ大会から何故ハブにされているのか、しみじみと実感させて貰った。

 こんなの相手に勝てる訳がない。

 圧倒的なまでの地力の差だ。

 きっと何をやっても追いつけない。


 よし、自分で乗りこなすのは諦めた。

 その代わり愛希先輩によるプロモーションビデオを作ろう。

 撮影機材は広報班のを借りればいい。

 あんな乗り方自分で出来るとは思えない。

 人生諦めも肝心だ。


「愛希先輩、折り入って頼みがあるんですが……」

 という訳で、僕は急遽たてた計画を実行に移す。


 ◇◇◇


 そして6月28日火曜日第3時限。

 魔法工学科実習の授業。

 何とか今回の発表に提出が間に合った。


 これはビデオ編集等に長けた学生会広報班の協力のおかげでもある。

 特に理奈先輩が妙に乗り気で編集を手伝ってくれた。

 おかげでビデオの出来はかなり良い。


 今回は概念設計のみの発表者はいない。

 設計図のみの発表者が9人。

 そして実機ありが5人で実機の最初が僕の発表になる。


「今回製作したのはMJ管10本による簡易飛行機械です。実機による説明及び試乗は後でという事で、まずは乗りこなせばどういう動きが出来るか、モデルによる乗りこなしの例をビデオで見ていただきます」

 発表者用のパソコンに接続したUSBメモリ内の動画ファイルをクリックする。


 大教室の4箇所に設置された大型液晶モニタが動画を写し始めた。

 画面上で愛希先輩が手を振る。

 半袖ポロシャツにスカートという魔技高専女子によくある格好だ。

 そのまま組み立て済みの飛行機械に乗車、ハンドルに手をかける。


 画面は一気に引いてやや広めに飛行機械周辺を映し出す。

 そして次の瞬間、飛行機械は若干前のめりに空へ舞った。

 そのまま前方へ加速して。

 不意に機首を大きく上げたかと思うと180ターンをする。


 こうやって見ると愛希先輩、可愛いし格好いいな。

 どうも最近は食べ過ぎて風呂で伸びている印象が強いんだけれど。

 あ、いかんいかん。本題に戻ろう。


「モデルは攻撃魔法科の3年生です。彼女は炎と風の魔法を使えますが、今回は一切魔法は使っていません。重心移動と出力操作だけで操っています」


 愛希先輩は加速しながら片手をこっちに向かって振った後、また機首を大きく上に上げる。

 今度は空中一回転だ。

 一回転した後は横方向に一気にひねって前方へ加速をかけながら左右に機体をふらふら揺すり、そして横方向へ1回転。

 最後にくるっとターンして前に戻ってきて機体を止め、地上へ降ろす。

 やっぱり愛希先輩、可愛くて格好良い。


「この飛行機械は一切電子制御を行っていません。ですので乗りこなしは腕次第です。なおモデルはスノーボードの経験者で、一通りのトリックは出来るそうです。

 なお本機は折りたたんで持ち運び可能です。たたんだ時の本体はこの状態です」

 折り畳んだスーツケース型の状態を後ろにも見えるように少し上に持ち上げる。


「これを展開して組み立てれば飛行状態になります。組み立てに必要な時間はおおよそ3分ほど。工具は必要ありません。重量は約12キロ。フレームの主要部分を超ジュラルミンのハニカム構造やトラス構造にして強度を稼いでいます。

 なお実機への展開及び試乗については後ほど外の会場で行わせていただきます」


 よし、何とか予定通り言えたぞ。

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