第73話 ダークサイドへのお誘い

 5日水曜日、午後9時。

 今日はGW最終日。


 典明と寮へと帰る途中である。

 本当は夕食を食べて直ぐ帰るつもりだったのだが無理だった。

 夕食と露天風呂はセットで強制なんだそうである。

 セクハラだと訴えたいが誰も取り上げてくれそうに無い。


 むしろこの状態を公にしたら絶対オランダ所在のリゾートビーチ扱いされる。

 なお実地のスケヴェニンゲンにもヌーディストビーチが実在するとのこと。


 ネット情報なので本当か嘘かは知らない。

 詩織ちゃん先輩に頼めば実地調査も出来るだろう。

 でもそんな好奇心すら今は起きない。

 保養所の露天風呂だけでもうお腹いっぱいだ。


「普通の学生はどう過ごしているんだろうな」

 典明がぽつりとそんな事を言う。


「ここだとバイトの口も少ないしな。コンビニもマックも無いし」

「いや、ここの学校に来なかったとしたらだ。

 吾輩達はどんな学生、いや高校生生活を送っていただろうなと」


 僕の場合は簡単に想像がつく。

 多分きっと中学生時代の続きの単調な学校と自宅往復の生活。

 高校の方がおバカが少ないだろうからその点は楽だろう。

 でもそれ以外はきっとあまり変わらない。

 GWもきっと家で読書かネット三昧。


 それが今ではどうだ。

 皆でごはんだの混浴だのカラオケだの。

 外形的にはまるでリア充だ。

 本土の普通のリア充以上にリア充しているだろう。


「何か随分遠くへ来てしまったな。悪い事じゃないけれど」

 南に900キロという距離の事だけでは無い。

 生活様式を含め、何もかもが。


「そう言えば拙者、広報部に誘われたぞ」

 何だそれは。


「広報部って確か実態は腐女部だろ」

「男だけれど君ならイケる、と沙知先輩に言われた。あのカラオケで目を付けられたらしい」


 ああ、あのホモショタロリなカラオケか。

 あれはなかなか衝撃的だったな。


「いいんじゃないか、楽しそうで」

 僕なら絶対に断る。

 断固として断る。

 あんな危険な世界は入ってものぞいてもいけない。

 でも他人なら見ている分には面白そうだ。


「でも吾輩、お絵かきは出来ない。手先が不器用通り越してドラえもんだ」

 そっちの悩みかい。


「沙知先輩はお絵かきじゃなく文章中心だし、それは大丈夫じゃないか。何ならジェニー先輩かソフィー先輩が絵を描いてくれるだろうし。

 美雨先輩も絵だけのヘルプはやってくれるんだろ」


 別に興味があったから知っている訳じゃ無い。

 大広間にペンタブやらノートパソコンや持ち出して広報部連中が活動していたので、嫌でも見知ってしまっただけである。


「そうか、何なら一緒にどうだ?」

 それは無い!

 断固として無い!


 というか、典明本気であの腐女連中の仲間になろうとしているのか。

 脳みそ大丈夫か?

 病院に来て貰った方が良いか?


「僕は刀の方があるから」

 本心は隠してそう答えておく。

 まあ事実だ。


「そうか……」

 典明、本当に大丈夫なのだろうか。

 友人としては大いに心配だ。



※ 病院に来て貰った方が

  『医者に来て貰った方が』のミスではありません。いにしえのニコニコ用語です。概ねこんな感じにおかしくなった程度が酷くなっていきます(程度を示す言葉には諸説あり)。

  ○○は病気 < ○○は手遅れ < 病院が来い・病院来て < 病院逃げて < 現代医学の敗北

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