第72話 魔法使いになれるかな?

 食事を片付けて風呂へ入りその後のだらだら時間。

 僕は乾いた洗濯物をバッグに仕舞っていた。

 寮ではコインランドリーなのでここで洗うのが便利なのだ。

 魔法による高速乾燥機もついているし。


 ついでに大量の買い出し品やら持ってきた衣類を整理していた時。

 不意にバッグの内側に付けていたキーホルダーが目に入った。

 詩織ちゃん先輩に貰った招き猫だ。


 そう言えば貰った後2日位はこれで訓練していたが、最近は全然触っていないな。

 そう思って手に取ろうと触れた瞬間。

 静電気のような感覚が一瞬走った。

 思わず手を引っ込める。


 そして恐る恐る再度触ってみる。

 反応なし。

 つまんでみる。

 反応なし、変わらない。


 ならばときっちりと親指と人差し指でもって、魔法を使うつもりで軽く招き猫に意識を集中してみる。

 お、少し前と違う。

 招き猫の視線の方向が何となく感覚でわかる。

 招き猫の視線の先から光が出ているかのように。


 その光は招き猫の前方およそ15センチ位の場所で最も強くなり、そして薄れて1メートル程度先で消え失せる。

 軽く左右に振ってみて視線の方向が動くのを確認する。

 これは、ひょっとして。


 焦点らしい一番光が強い部分を色々な物に当ててみる。

 畳、バッグの布地、バッグのファスナーの金具、空中。

 いずれも感覚的にも実際にも変化無し。

 招き猫を畳の上に置いて手を離す。

 視線の光が消えた。


 またつまんでみる。

 それだけだと変化無し。

 軽く招き猫に集中してみる。

 また視線が出てきた。


 間違いない。

 これは僕の何かに反応している。

 これが魔力かどうかはわからないが。


 でも、ひょっとしたら僕も魔法を使えるようになったのだろうか。

 そう思うといてもたってもいられない。

 なにせ学生会内で魔法を使えないのは僕だけだ。

 典明もあの杖を手に入れてからは工作魔法だの検定魔法だのバリバリ使っている。

 青葉は炎以外の魔法も訓練を始めたらしいしさ。


 という訳でキーホルダーをバッグから取り外して制作者に聞きに行く。

 そして詩織ちゃん先輩はカラオケコーナーのところにいた。

 運良く今は歌っていない。

 よし。


「詩織先輩すみません。実は少しこのキーホルダー、今までと違う反応をしたのですけれど」


「どれどれなのです」

 詩織ちゃん先輩はぼくから招き猫のキーホルダーを受け取る。


「ん……第一段階はクリアなのです。体が魔法に慣れてきているのです」


「それじゃ僕も魔法を使えるんですか」

「まだ無理なのです。でもこの調子ならいずれ使えるようになるのです」


「どれくらいで、というのはわかりませんよね」

「確約は出来ないです。でも1月でここまで来たなら夏休み頃には期待してもいいのです」


 お、思った以上に早いぞ。

「という訳でこれは返すのです」

 招き猫が帰ってきた。


 思わず招き猫のデコの部分を指でなでてしまう。

 頼むぞ……なんて。

 存在を忘れかけていたのに我ながら現金だ。

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