第71話 僕の飛行機械

 実際は5分も待たなかった。


「そういう訳で調達したのですよ」

 重そうなプラスチックコンテナを抱えた詩織ちゃん先輩が現れる。

 なお抱えているだけである。

 重くて持ち上げられないようだ。

 もしくは疲れるから持ち上げないのだろうか。


「ではこれをプラコンごと持って行くのですよ。帳簿は私が後で付けるです」


「ありがとうございます」

 そう言って僕はプラコンごとMJ管を受け取る。

 持ってみるとそこまで重くは無い。


 さて、新しく発注したMJ管は直径200ミリ高さ200ミリ出力250N。

 標準魔法部品のMJ管では最強タイプ。

 これをどう制御してやるかだ。


 人間の手は2本。

 足を入れれば4本だがそこまで複雑な制御はさせたくない。

 イメージは今までのキックスケーターよりもっと軽快でスポーツなイメージ。

 そうだな……

 海上バイク、それも立ち乗り型のタイプなんていいんじゃないだろうか。

 軽快でシンプルで、それでいてテクニック次第で色々な動きが出来る。


 でもそれだけじゃない。

 初心者はあくまで安全かつ楽に乗れる。

 持ち運び可能な利点も消したくない。


 よし、まとめよう。 

 普通に使えば折りたたみ自由で何処にも持って行けて誰にも乗れる空中浮遊機。

 でもそれはあくまで一面で、ちょっとの操作で危険だが高速で色々なアクション可能な機体になる。

 そう、ジキルとハイドのような2面性を持った浮遊機だ。


 フレームはそのまま使い回せる。

 ただフロントには薄くて丈夫なカウルを付けよう。

 こういう物のデザインはイメージだ。


 薄いカウルで折りたたみに支障が無いものを設計。

 そして軽快性を出す為、MJ管は高めの配置と低めの配置。

 出力系統の調整でジキルとハイドを切り替えられるように。


 出力した今までの設計図にどんどん鉛筆で上書きしていく。

 あまり大きな設計変更はしなくて済みそうだ。

 ワイヤーとアウターケーブルはかなり長めに買ってあるから心配は無い。

 ただワイヤーをまとめて引く部分は自作が必要だけれども。


 出力調整も3系統のみ。

 でもそれだけで初心者用ならゆっくりと安全に。

 遊びなら不安定だけど高速に。

 それぞれ自由に動かせるはずだ。


 最初の予定より重さそのものは重くなる。

 質量としてはかなり軽めだけれども浮力調整が無いからだ。

 でも10キロちょっとだから硬い床や舗装道路ならコロコロと転がして歩ける。

 大きさは元と同じサイズに収まる。

 サムソナイトの86サイズのスーツケースよりほんの少し小さいサイズだ。


 あとは横のフレームも翼状の格好に整形しよう。

 基本は今のフレームに折りたたみに邪魔にならないようにガラス繊維張ってレジン塗る方向で。

 でも翼面が広ければ浮力も安定するな。

 なら微妙に形状も変更。


 そんなこんなで変更点と変更部品をCADへ落としていく。

 何かここまでやって、やっと自分の作品としてのイメージがわいてきた。

 そして気がつけば……


「本日の部、終了なのですよ」

 時計が17時を指していた。


「名残惜しいでしょうが片付けの方向でお願いするのです」

 との詩織ちゃん先輩の指示で僕達は片付けに入る。

 実質的には僕の工程は進んでいない。

 むしろ後戻りすらしている。

 でも僕は満足だった。

 やっと自分らしい課題の答を見つけた気がしたからだ。

 と思った処で。


「特に朗人は早く片付けるのです。昨日昼から釣った魚の刺し身に合わせて和風の料理ばかりなのです。そろそろ南国料理が食べたいと文句を言いたい人が出るのです」

 はいはい。

 僕はご要望に応え、片付けのピッチを早めることにする。

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