第62話 宇宙の入口(1)
屋上等に色々と怪しげな構造物が姿を現し始めた。
言うまでも無く魔法工学科の実習課題だ。
今年は材料の支援もあってか実作派がかなり増えたらしい。
例年は科全体で10点前後だったのが、今年は3倍近くになりそうだとの事だ。
屋上全体に魔法がかかっていて、雨風は防いでくれるとの事。
まあ僕とか典明、青葉は学生会の工房を使えるから屋上を使う必要性は無いが。
他にも各研究会の使っている工作室や研究室等にも置いている連中がいるらしい。
出来というか方向性は色々。
中には人面岩にしか見えないものもあるが、あれは一体何なんだろう。
制作者の能ヶ谷はザルドスとか言っていたが。
僕らのも大分形になってきた。
ある意味一番簡単なのは僕のキックスケーターだ。
GW前にしてほぼフレーム全体が完成した。
まだ動力部の艤装をしていないので動けないが、既に大まかな形にはなっている。
使わない時は折りたたんでゴロゴロ転がして移動できるのも設計通りだ。
大きさも大きめのスーツケースぐらいまでは折りたためる。
重さそのものは7N系超々ジュラルミンでも10キロを切れなかったけれども。
典明の実証模型第1号はかなり完成に近づいた。
形としては後退翼の飛行機、それも戦闘機とか高速爆撃機のような形だ。
大きさは大体全長1.5メートル位。
内部には例の魔法の箱の中に水タンク。
そしてMJ管を使った補助噴射機。
他にはバッテリーと制御用マイコンやらセンサー類やらサーボモーターやら記録用SDカードやら。
例の魔法による浮力で宇宙への境界線まで上昇。
上昇力が規定より弱まるか高度100kmを超えるかした場合にタンク内の水を放出して下降へと移行する。
永続魔法がかかっているMJ管は常にある程度の空気を前方から取り込んで後方に噴射し、姿勢制御を助けてくれる。
それで学校上空まで何とか降りたら最後はパラシュートで地上へ落とす予定だ。
典明は例の杖を使えばある程度の加工魔法も使えるらしい。
だからか僕よりかなり仕事が早いし仕上げもいい。
訳がわからないのが青葉のだ。
今のところどう見ても人間用簡易外骨格フレーム以外の何物でもない。
あれは何なんだ、どうやって飛ぶのか。
まあ詩織ちゃん先輩が監修しているみたいだから大丈夫だろうけれども。
さて。
5月1日をもって僕ら3人は正式に学生会の役員に任命された。
学生会役員補佐という良くわからない役職だけれども。
なお実質は何も変わらない。
だいたい今年の5月1日は土曜日だし。
実際には例によって金曜日の食事会と露天風呂と宴会。
そして今朝の食事会だ。
でも今日は僕と典明にはちょっとした用事があった。
休みが続く時で無いと試せない事だ。
そして幸い、天候もGW中は良いようだ。
風もそれほど出ない予想。
そして朝9時、学生会工房前。
なんやかんや言って学生会の現役連中が皆さん一緒に来てしまった。
おまけに香緒里先輩や修先輩までついてきている。
「では第1回実験、開始します」
そう言って典明は実証模型を固定しているベースのロックを解除する。
ふわっ、という感じで実証模型1号は空に舞う。
機首を斜め上に向け、上空目がけて加速していく。
「第1回実験では5キロだっけ」
「その予定」
典明は青葉にそう返答する。
実験は本日中には上空5キロへ1回、上手く行けば上空10キロまでもう1回。
問題が無ければ明日朝6時に上空100キロ目指して飛ばす予定だ。
典明は自分のスマホを取りだし、SMSの画面にする。
そして。
「第1回受信成功。0.2Gで更に加速中です」
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