第60話 第2回新人歓迎釣り大会(3)
典明がカンパチ13キロをつり上げ、詩織ちゃん先輩がウメイロ40センチ超えを5匹上げたところでルイス先輩が口を開く。
「よし、今日は魚の食いが悪いのでボーナスチャンスだ。全員リールを巻いて仕掛けを1回完全に上げてくれ。より釣りやすい仕掛けに変える」
そう言いながらルイス先輩は海面に紐付きのバケツを投げ、海水を汲む。
「詩織、15センチクラス4匹以上頼む。場所はそのバケツの中」
「了解なのですよ」
そんな会話の後、ルイス先輩は道具箱から何かを取りだしながら説明する。
「今度は疑似餌ではなく実際に餌になる魚をつけて釣りをする。仕掛けは女子勢から順に用意する。男性陣は少し待ってくれ」
そう言ってルイス先輩は青葉の方へ行って、今の疑似餌を外して新しい糸と針のついた仕掛けに交換する。
「ルイス、用意はOKなのですよ」
いつの間にかバケツの中を何匹もの小魚が泳いでいた。
詩織ちゃん先輩言うところの『釣り』で捕らえてきたのだろう。
ルイス先輩はバケツの中に手を入れ、さっと小魚を出して針に付ける。
「これをゆっくりと30メートルまで落としてくれ。そしてそのままある程度魚が泳ぐに任せる。魚群が来れば一発だ」
青葉が見た目にも慎重そうに魚付きの仕掛けを海面へと落とす。
ルイス先輩は美雨先輩の方へ。
その間に僕は全く違う方向へと思考を走らせていた。
きっかけはバケツの中の小魚だ。
微妙に腹の色が違っていて背に線が入っているこれは間違いなく……
「ルイス先輩、お願いがあるんですがいいですか」
「何だい?」
美雨先輩の仕掛けを付け終わったルイス先輩が振り向く。
「この小魚、もっといっぱい捕りたいんですけれどいいですか」
「何でだい?小さいのがいっぱいだと捌くのが大変だろう」
「そうなんですけれど、ちょっと試しにやってみたい事があるんです」
「許可ですよ」
そう言って詩織先輩が立ち上がり、船庫からもう1個バケツを取り出す。
そのバケツを抱えたまま目を瞑って何か念じている様子だ。
「どうするんだ?」
「この魚、沖縄ではグルクンって言って唐揚げが美味しい魚だと思うんです。だからちょっと作ってみたくて。調理は自分でやりますから」
「という訳で群れごと捕獲完了なのです!ルイス、氷温処理なのです」
詩織ちゃん先輩がそう言って抱えていたバケツの中を見せる。
バケツ半分までぎっちりとさっきの魚で埋まっていた。
ルイス先輩はあーあ、という顔でそれでも魔法をかけてくれる。
バケツの中の魚の動きが止まる。
「しかし悪いな、昨日も今朝も料理番で」
「いえ、料理を作るのは好きなんです。唯一の趣味みたいな物ですしね」
「助かるけどさ、無理はするなよ」
そう言いながらルイス先輩は今度は典明の仕掛けを交換。
その間に、
「よっしゃあ!ヒット!」
やっと青葉の竿に魚がかかったようだ。
◇◇◇
結果はこの前ほどではないがまあ大漁と言っていいだろう。
女性陣も各2匹ずつ10キロ級の大物を釣り上げている。
典明はなんやかんや言って着実に4匹の大物を仕留めているし。
強いて言えば僕が一番キロ的に少ない。
それは後半戦にはもう脳みそが料理の方へ飛んでいたからだ。
この調子なら7月頃にはスクガラスも作れるかな、とか脱線するほどに。
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