第54話 その名はスケヴェニンゲン

 片付け終了後。

「いやあ、刺し身以外でこうなるのは初めてだな」

 修先輩がそう言って笑っている。

 9人が移動困難で横たわっている。

 食べ過ぎによるトド状態である。


「さっぱり系とかすっぱい系だから大丈夫だと思ったんだけど」

 と青葉まで倒れている。

 典明はもう返事すらしない。

 他は鈴懸台先輩、世田谷先輩、ジェニー先輩、ソフィー先輩、愛希先輩、理奈先輩、沙知先輩、エイダ先輩。

 前回トド化したのと重なっている面子が多い。


 何故か誰より食べているように見える詩織ちゃん先輩は平気だ。

 この人は胃袋もゼットントリオ級なのだろうか。

 そしてトド化した愛希先輩がのそのそ動いて詩織ちゃん先輩に何か相談。

 ちょっと何か会話した後詩織ちゃん先輩は大きく頷いた。

 そして……


「今日は被害者の人数が多いので露天風呂を一部変更するのですよ。メインのあつ湯浴槽を寝湯の深さにして枕付きに変更するです。という訳でしばし待つのです」

 そんな機能がついているのか…… 

 そう思った時だった。


「ねえ、露天風呂って、何?」

 倒れている青葉からそんな台詞が。

 忘れていた。

 そう言えばそんな障害があったんだ。


「まだ誰も話していなかったですか。

 そっちの部屋の外は露天風呂になっています。ぬる湯あつ湯にジェットバス、寝湯にたる湯にサウナ2種と歩行湯。

 今日は横になりたい人が多いのであつ湯の浴槽を寝湯に変えるそうですけれど」

 美雨先輩があっさりそうばらす。


「ん、それで聟島温泉という提灯なのね。了解したわ」

「寝湯に浸かったら大分楽になるぞ、前もそうだったし」

 と一週間前にも倒れていた愛希先輩が恐ろしいアドバイス。

「ただここの露天風呂は混浴だけれどさ」

 しかも愛希先輩そこまでばらしてしまう。


 ああ、終わった……

 これで魔法工学科1年の間でオランダのデン・ハーグ市にあるリゾートビーチのようなあだ名がついてしまうのは確実だ……

 そう思ったのだが。


「まあ広さを考えれば当然でしょ、どうせ変な事は出来ないだろうし」

 思った以上にあっさりと青葉が了解してしまう。

 おい、本当にいいのか。

 金井青葉の理性、ちゃんと仕事しているのか?!


「露天風呂、OKなのですよ」

 詩織ちゃん先輩の声がする。

 女性陣がぞろぞろ更衣室に向かっていく。


 今日は奥の部屋と中の部屋の2部屋を更衣室に使っているようだ。

 人数が多いからだろうか。

 そのうち動きが変なのが半数以上いるのがなんとも言えない。


「今日は人数の割には早いだろうな」

 とルイス先輩。

「諦めて更衣室へ行きますか」

 と俺達も更衣室へ向かう。


 今日は修先輩、ルイス先輩、ロビー先輩、典明、僕の5人だ。

 入って浴衣やタオル等を準備しているとすぐに声がかかる。

「今日はもう大丈夫なのですよ」


 何も見ないようにして洗い場へ移動するが、見える物は見えてしまう。

 それは大量殺人事件の死体置き場。

 いや違う、食べ過ぎのトド置き場だ。

 実のところ色気も何もあったものじゃない。

 それでも見えると思わずどきっとする自分が悲しい。

 しかもトド置き場が2箇所に増えているし。

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