第53話 新米料理人の敗北?
金井青葉の露天風呂問題だのキックスケーター問題だので頭が重い。
そんな僕の憂さだの悩みだのを晴らす手段はあまりない。
ただ学生会保養所の冷蔵庫には僕の鬱憤を晴らすには十分な食材が揃っていた。
先週は無かった筈のナンプラーや青パパイヤ、生パクチーまで入っている。
しかも常温庫の方にはココナッツミルクの缶まで入っているし。
これはやれ!という事だな。
買い出し担当詩織ちゃん先輩からの挑戦状として受け取ろう。
宜しい、ならば
やけと悪乗りと憂さ晴らしの結果、本日のメニューは
○ タイ風パパイヤのサラダ(ソムタム)
○ 中華風海鮮サラダ
○ タイ風酸味のきいたココナッツミルクと豚肉のスープ(トムカーム)
○ 蒸し鶏タイ風のソース付(カオマンガイのおかず風)
○ 刺し身各種(先週の釣りの獲物を解凍したもの)
○ 目玉焼き人数分
○ 別盛パクチー(各自好みによって振りかける)
と微妙な組み合わせになってしまった。
しかも炊飯器の時間制限から10分もオーバーしてしまった。
でも、まあいい。
なお本日は制作者が鬱憤をぶつけた結果味が日本人向きで無く尖っている。
他にもまあ色々調理担当錯乱に付き……の要素が色々ある。
パクチーを最初から散らさなかったのはせめてもの慈悲だと思え!
そんな訳で本日の料理人説明。
「今回は前回と比べ本場寄りの味になっています。なお茶碗が無く平皿なのは乗せて食べてくれ、という意味です。
少なくとも目玉焼きはご飯にのせて下さい。というかスープ以外はご飯のせが今日の基本です。
パクチーは好みがありますが全てにガンガンに入れるのもまた一興です」
本当はご飯も鶏出汁で炊きたかったのだが、そう思った時には既にロビー先輩の手で炊飯器のスイッチが入った後だったのだ。
なお本日の人員は20人だ。
座卓もいつの間にか1台増設している。
スープはかなりすっぱ辛いしそれなりの量作ってある。
サラダも27センチの皿山盛4皿が2種類の合計山盛8皿。
蒸し鶏に至ってはもも肉を合計4キロ使った。
刺し身だって尋常な量では無い。
しかもカメムシの臭いとの悪評高いパクチー山盛りが4皿。
今日は余ることはあっても足りない事は無いだろう。
そう思ったのだが。
「いただきます」
の唱和とともに夕食会が始まる。
「うわこれ、この前より酸っぱい」
「置いてあるだけでカメムシの臭いがする」
よしよし女どもよ、悲鳴をあげるがいい!
と脳内再生某デーモンの声で思っていたのだが……
「でも慣れるとこれくらいすっぱ辛いのも美味しいね」
「ご飯のせて蒸し鶏乗せて、パクチーいっぱい乗せてこのタレ掛けて……いい!」
あ、思ったより好評だしこいつら順応性が高い。
そりゃ不味くは作っていない。
料理人の端くれとしてそんな事は絶対に出来ない。
本場風とは言えちゃんと自分の基準で美味しく食べられるよう作っている。
でも……
「それにしても朗人、料理中は何か人格変わって見えるよね」
「あ、小生もそう思うぞよ」
「やっぱりそうなのですね」
そんな事を言いながら皆ガンガンにパクチーを振りかけてガンガン食べやがる。
僕が味付けに遠慮しなかったすっぱ辛いスープでさえ。
ご飯も足りなくなり冷凍を解凍。
そして気がつくと……
「朗人、今回も足りないのです……」
詩織ちゃん先輩がそんな事を言う始末。
「待て詩織、今回の量は決して少なくない」
ルイス先輩の声。
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