第52話 典明の野望(2)
スケールが大きい話になって、一瞬僕の思考が固まってしまう。
「勿論今回の制作で実際に宇宙船を作る訳じゃない。今回はあくまで実証モデルとデータ取りまでだな、残念ながら」
そ、そうだよな。
「という訳で取り敢えず実証モデルを兼ねた環境測定用の無人往還機と、高度100キロに作るプラットフォームの設計およびモデル作成までが作成目標だ」
「無人往還機、って本当に宇宙に行って戻ってくる奴か」
「プラットフォーム設計の為のデータを取りたいからな」
おいおい本気か。
そんなの1月前まで中学生だった奴が作るようなものなのか。
ただ典明が冗談を言っているようには見えない。
「理屈は簡単だ。まずこの部品番号53番、『浮力調整具:中に入れた質量の分マイナス重力が生じる箱』があるよな。この箱の中に頑丈な水タンクを入れて中に水を入れる。すると当然箱は浮くよな。浮いて空中へと舞い上がる。そこまではいいか」
「ああ」
怪しい魔法の箱を使う以外に問題点は無い。
「なら次の段階だ。重力は2点間の距離の二乗に反比例する。しかし地球の質量中心はほとんど中心。そして地球の半径はおよそ6千371キロ。だから宇宙の入口とされる高度100キロ程度だったらそれほど重力はかわらない。
つまりこの高度までは浮力調整具が問題なく使用出来る。
そして浮力調整具内の水タンクと調整具外の水タンクで、中の水を移動させればある程度の範囲で上下方向にかかる力を調節する事が可能。
これをうまく調整すれば宇宙の入口である高度100キロへと移動する事が可能だ。
ここまで問題は無いな」
確かにそこまでの話に問題は無さそうだ。
でもそこまで出来れば、確かに上空と行き来できるな……
「ここでこの箱にある程度の翼だの方向舵だの水を噴射するスラスターをつける。これで空気があろうがなかろうがある程度の位置と姿勢の制御は可能だろう。
今の原理で上空100キロ以上まで往復できれば燃料は基本水だけの安上がりな宇宙往還機が完成する。違うか」
確かに……出来るな、それは。
「凄いなそれ。確かにそれで安上がりに宇宙まで往復できる」
「まだ早い、ここからがこの計画の本番なんだ」
奴の声に更に力が入る。
「同じ原理で遙か上空に浮かんだままにしておく基地も作れる。同じような水タンクで浮力を調整し、更に水の噴射で姿勢を調節すれば」
僕は頷く。
今の往還機と基本的に理屈は同じだ。
「そしてさっき話した往還機で地上から水を運ぶ。浮力タンクに水を入れて基地まで上がり、基地で使用した分の水を供給して降りてくる。
基地は水を管理しながら上下方向への力や姿勢、速度を調整して高度と位置を保持すればいい。そうだな」
問題無い。でもそうすれば……
「さっきも言った通り高度100キロはそのまま宇宙への入口だ。
そこからなら一般の宇宙機でも地上から飛ばすのより遙かに低い負担でより高い宇宙へと舞い上がり、戻る事が出来る。
そんな基地と宇宙機が出来れば今より宇宙がもっと安価に、もっと身近になる。
それが今回の拙者の課題への答だ。まあ壮大すぎて実際には往還機の実証モデルと短期間だけ上空へと滞在させるプラットフォームの実験機だけになるが。
ひょっとしたら『空飛ぶ課題』とは少し違う方向性なのかもしれん。でもまあある程度の点はくれるだろうししかも機材を使い放題だ。だからこの計画を思いついた時、悪いが他の方向は考えられなくなった」
凄すぎる。スケールが大きすぎる。
おかげで自分の作っている空飛ぶキックスケーターが急にみすぼらしく感じられてしまった。
それでもある程度機械的に手を動かして設計は進める。
残りはほぼルーティン作業で作れるようなところばかりだし。
そんなこんなしているうちに時計が17時30分を指す。
「そろそろ学生会室へ戻るデス。今日は金曜日デスから」
あ、そうだ。
そっちの問題もあるんだった。
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