第51話 典明の野望
金曜日3時限終了後の休み時間。
「そう言えば今日、着替えやタオルを持ってこいって言われたけれど、何があるの」
いきなり金井にそう聞かれて僕は思わず答に困る。
何せ今は教室内だ。
今日の4時限はホームルームなので教室移動は無し。
なのでダベる時間は困った事に十分ある。
「学生会の保養所みたいな処があるからさ。今日はそこへ行く予定なんだろ」
とまあ事実をあくまで簡潔に言っておく。
「保養所か。でもそんな物学生会が持っているんだ」
「何かOBが金持ちで提供してくれているらしい」
「それって怪しい施設じゃ無いよね」
あ、ちょっと言葉に詰まる。
怪しい……よな、あれはやっぱり。
「OBと言っても同じ学科の5年生、それも女の子だぜ。何か魔法素材開発したのはいいけれど税金が酷くてその対策でやっているんだとさ」
セーフ。
典明が助け船を出してくれた。
「それにこの島で下手な事をしたら、それこそ魔法ズドーンだろ。確か犯罪発生率が冗談みたいに低いらしいな、この島」
ついでに他の話題へと逃がしてくれる。
「確かに見かけで相手を判断出来ないものね、ここは。スーパーのおばちゃんが冷凍食品を熱魔法で解凍していたのを見た時は呆れたわ。どういう世界よここは、って」
「そう言う金井だって凶悪な魔法使っていたじゃ無いか。最初のキャンプファイアーなんて比じゃないだろ、あれ」
「え、金井さんあれ以上の魔法使えるの?」
「そうだぞ、怖い怖い火砕流が……」
とまあ日常モードになった処でチャイムが鳴る。
おなじみ中年太りのゼットンがやってきた。
起立礼着席とやってホームルームが始まる……
◇◇◇
そして放課後。
僕と典明は学生会の工房にいた。
金井さん、こっちでは青葉は学生会室にいる。
まずは詩織ちゃん先輩にどんな魔法素材があるか、どんな使い方があるかレクチャーをしてもらうそうだ。
そんな訳でここは気楽な男世帯。
他にいるのはロビー先輩だけだし。
「しかし3限終わりの休み時間はやばかった。ありがとな」
典明に一応礼を言っておく。
「でも問題はこの後だ」
まあその通りなんだけどさ。
「まあなるようにしかならないだろう。こっちがどうにか出来る訳じゃ無い」
「だな」
そんな事を話しながら作業をしている。
僕の方は主要部分の設計がやっと終わりに近づいた。
そして典明は既に実作もある程度始めている。
今はアルドゥイーノというマイコン付き開発キットを使って何かを作成中だ。
「これは?」
「制御用と測定用だな。無料提供だから思う存分に使ってやるぜ」
温度計とか加速度計とか組み合わせ可能な色々なセンサー類も用意している。
GPSキット等まで用意しているようだ。
「何か随分と色々センサー類を使っているな。ただ飛ぶだけじゃ必要ないだろう」
「まあな。ただ飛ぶだけじゃ物足りない」
典明はにやりと笑う。
「どうせなら思い切りよく上を目指したいからな。ついでに吾輩の昔の夢をちょっとだけかなえてみようかと」
奴はビシッと人差し指を上に向ける。
「目標は空より上。宇宙だ!」
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