第49話 金井青葉の選択

 木曜3限は化学Ⅰ。

 必死に板書に追いすがっているうちに3時限終わりの時間が近づく。


 単に教科書に沿って授業しているだけなら教科書に下線でも引けば済む。

 でもこの先生は微妙に教科書に無い応用を挟んでくる。

 だからノート不要派だった僕もメモを取らざるを得ない。


「さて、今日はここまで」

 先生がそう言うと同時にチャイムが鳴る。

 僕も何とか取り切ったノートを仕舞う。


「さあ、行くわよ」

 いきなり真横から声がした。

 既に撤収準備完了、という感じの金井、いや青葉が横にいる。


「早いな、随分」

「善は急げよ、さあさあ」


「お、金井は三輪とデートか」 

「違うわよ、単なる課外活動。緑山も行くよ」

「へえへえ」


「あ、金井さん研究会決めたの?」

「ん、まだ確定という訳ではないけどさ」


「青葉今日はどこの研究会?」

「ん、ちょっとね。まだ確定で無いし」


 金井さんは結構人気がある。

 なので色々な詮索やら追及やらを受けている。

 まあ器用にかわしているけれど。

 という感じで何とか教室を脱出。


「しかし金井、本当に学生会に入るのか」

 典明が尋ねる。

 彼の脳裏に金曜日問題があるのはきっと僕と同じだ。


「教室外では青葉でいいよ。まあ入れればね。同じ学年に同じ学科3人は無理かもしれないけれど」

 あ、そういう問題もあるのか。


「あとまさか攻撃魔法科に転科したりはしないよな」

「それは大丈夫。それはそれ、これはこれ」

 そんな事を言いながら歩けば学生会室はすぐだ。

 金井、いや青葉は学生会室の扉の前で一度立ち止まって、軽く呼吸を整える。

 そしてノックを2回。

「どうぞ」

 これは理奈先輩の声だな。


入ると今日は上席3人がいない。

 いるのは理奈先輩、愛希先輩、美雨先輩、沙知先輩、エイダ先輩の5人だ。

 ロビーさんはきっと工房だろう。


「まあ座って。青葉はここ、席を用意したから」

と理奈さんの指示で僕と典明はもはや指定席になった場所へ。

 青葉は典明の隣の席に座る。


「4年生は選択授業の説明会。だからルイス先輩達は4時からだな」

 愛希さんがそう説明。

 そして美雨先輩がタンブラーに入ったお茶を僕ら3人の前に置いてくれる。


「3人とも冷たい紅茶でいいんですよね」

「ありがとうございます」

 ブランドとか種類は知らないけれど香りのいい紅茶だ。


「さて、今日はどうする。まあ朗人と典明はこの後工房だよね。課題作成中だし」

「そうですね」

 愛希先輩の言葉に僕と典明は頷く。

 昨日はあの騒ぎで作業が止まってしまったのだ。


「それで青葉はどうしましょうか?2人と一緒に工房に行く?それとも今日だけちょっと私と昔話でもしましょうか。

 これでも私、ここへ来て他の魔法も色々練習したんですよ」


「私は本当は今日、学生会ここに入らせてもらえるかどうかを聞きに来たのですけれど。同じ科が3人になってしまいますし」

「問題ないよ」

 愛希先輩がそう断言する。

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