第45話 炎と氷、もしくは仮面ライダー対仮面ライダー(1)

 理奈先輩の雰囲気は週末の遊びモードとあまり変わらない。

「理奈先輩、何故術式学園を出たんですか」

 金井の声もまだ落ち着いている。

 まだ、という感じだけれども。

 いつもの口調とあまり変えていないが、何かを感じさせるというか訴えている。


「私は面白くない事とまどろっこしい事は嫌いなの。今の術式学園あそこよりも魔技高専ここの方が面白そうだった。だから私はここに来たし、ここにいるの」


術式学園あそこには先輩を慕っている人も多かった、それなのに」

「それでも私は私、人は人。私は誰にも命令しないし誰にも命令されたくない。私は私が行きたい方にしか動かないし動きたくない。

 少し場所を変えましょうか。少し別の話し合いもしたいしね」


 理奈先輩はそう言って、そして詩織先輩の方を見る。

「ここにいる沙知以外の全員を、第3運動場までお願いしていいですか。沙知は申し訳ないけれど、この工房の留守番をお願い。資材関係は知ってますよね」

「大丈夫です」

 沙知先輩が頷く。


「では詩織先輩、お願いします」

「了解ですよ」

 ふっと景色が白くなり、足下の感覚が消える。


 ◇◇◇


 次の瞬間足の感覚が戻る。

 景色は変わっていた。


 ここは学校の一番海側の外れ、第3運動場だ。

 運動場と言っても実態は魔法演習場。あちこちに爆発の痕跡らしい穴が空いていたり崖の手前の鉄の柵が真っ黒くなっていたりする。


「それでは青葉以外は下がっていて下さいな。ルイス先輩、お願いしますね」

 ルイス先輩はあからさまにいやな顔をするが文句は言わない。


「さて青葉、語りたい事も色々あると思います。でもまずは今のあなたの腕を見せて下さいな。勿論私は魔技高専ここでそれなりに研究なり演習を繰り返していますからハンデは差し上げます。

 具体的には私はこの杖、術式学園の頃から使っていたこの練習杖を使います。

 あなたはこれ、今私が持っている中で一番出力が高くて使いやすい杖です。これを使って本気で私を攻めてきて下さい。本気でですよ。

 そうしないと私は青葉をつまらないと判断します」


 その杖には見覚えがある。

 典明が貰った杖ときっと同じ杖だ。

 金井は黙ってその杖を受け取る。

 手に持った一瞬顔をしかめたが、それも一瞬だ。


 金井は後方へ10メートル位離れて、そして膝を軽く曲げる。

「では、行きます!」

「どうぞ」

 その返答が聞こえるか聞こえないかの瞬間。


 炎の濁流が金井さんの左手起点に迸る。

 それは人の身長以上の高さで理奈先輩を襲う。

 しかし理奈先輩はすすっと斜めに横切るように炎の濁流を横切った。


「まだです」

 今度は金井さんの右手から炎の濁流が発生する。

 理奈先輩のいる場所が濁流の中に島のようになっている。

 それでも理奈先輩の微笑みは消えない。


「しかしこれなら!」

 炎の濁流の下流がめくれ上がって上空へと伸びた。

 そして一気に上から理奈先輩目がけて落ちてくる。


 理奈先輩は杖を持たない左手を軽く上へと上げた。

 たったそれだけの動作で落ちてくる濁流が2またに分かれる。

 理奈先輩に触れる事なく濁流は左右へ散っていく。


「まだまだ!」

 金井は両手を振り上げた。

 炎の濁流が今度は渦を巻く。

 理奈先輩を中心に炎の竜巻となる。

 炎の竜巻は次第に勢いを増すとともにじりじりとその直径を縮めていく。

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