第42話 黒幕と税金対策とそれぞれの空
時計を見ると既に3限は終わっている時間だった。
ならばそろそろいるだろう。
僕の部屋から学生会工房まで4分かからない。
行ってみるといるいる、詰問をしたい相手が揃っている。
ロビー先輩、詩織ちゃん先輩だけでなく香緒里先輩や修先輩まで。
これはきっと偶然じゃ無い。
本日魔法工学実習の第1回目課題発表があると知っていての布陣だろう。
「やあ、遅かったね。典明君は既にCADに向かっているよ」
って、早すぎるだろう典明!
いやそうじゃなかった。
「この素材提供ってのはあの保養所の会社ですか」
「そうだよ。よく気づいたね」
どうも返事の様子から黒幕は社長の香緒里先輩では無く、この修先輩の方らしい。
「なんでまたこんな事まで」
「税金対策だ。
というのは半分本当なんだが、昨年のロビーの飛行機械の件で苦情があってね。学生会ばかりいい材料や部品を使っているって。
だから今年は作れる物ならやってみろ、と必要そうな部品や素材を条件付きで提供する事にした。おおざっぱな理由はそんなところさ。
勿論名目はただじゃない。パンフや発注書には書いてあるが、もし優秀な作品で他に設計図やパテントが売れた場合はその収入の5パーセント以内をいただく事にしている。こっちが提供した素材代金の2倍以内の範囲でね。
まあすぐには儲かるとは思っていないけれど、損しても税金対策にはなるからね」
「今年の素材や部品類は私とロビーで選んだのですよ。既にある程度の在庫は用意してあるのです。ガンガン使っても問題ないのです」
何かもう、徹底して先輩達に先回りされている感覚だ。
なまじ悪気が無いのが明らかなだけに始末に負えない。
「で、どうする?ここで考えるかい?それとも概念設計が出来るまでは寮で考えるか?」
「その前に皆さんに質問をいいですか?」
聞いてみたい事がある、各自に。
「かまわないよ。何だい?」
「それぞれ、自分の空を飛ぶ機械はどうやって考えついたんですか?」
あのバリエーション豊富な訳のわからない機械類。
無骨な建機のような雰囲気のロビー先輩の飛行機械。
アニメ的発想の詩織ちゃん先輩の飛行ロボット。
香緒里先輩の空飛ぶスクーター。
ちなみに修先輩のは超小型ヘリコプターだが、動作メカニズムには魔法を一切使用していない。
なので注釈として
『この機体は飛行可能でかつ汎用性に優れているが、残念ながら課題の『魔法を使った機械』の製作と意図が異なっている。しかしその完成度に免じて教授会一致で優秀作とした』
と記載されていた。
いずれにせよ全員それなりに独自の飛行機械を製作してしまった訳だ。
それらをどうやって思いついたか聞きたい。
「俺の場合は軽々と自由にふらふらと飛行するというイメージが先にあった。ただ使える材料が限られていたし、俺自身の魔力は悲しいほどだった。だから通常動力を使い出来るだけ小さく軽く設計した。結果があのヘリコプターという訳さ」
「私の場合は修兄と共作です。私の魔法にあった飛行機械を2人で考えて、それに合わせて色々試行錯誤したんです。最初は自転車型だったのですが装備が大きくなりすぎたので中古のスクーターに偽装し直したんです」
「私は元々ロボットを作りたかったのですよ。なのでゲームで設計した超軽量ロボットをベースに飛行可能なパーツを組み合わせて設計したのですよ」
「僕の場合のイメージは実家の大型トラクターデス。ノースダコタにある実家の刈った後のトウモロコシ畑を走るトラクターのイメージデス。それを飛行化したデス」
なるほど。地に足がついたというか、とんでもない物を作っているように見えてそれなりにきちんと下地がある訳だ。
「わかりました。どうもありがとうございました」
僕は4人に一礼する。
「で、どうする。ここでやるか寮でやるか」
「取り敢えず寮で自分の考えを固めてきます」
僕の言葉に修先輩は頷いた。
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