番外編その四十一 「創作における西暦問題」

 秘書さん

「なにやら異世界の創作界隈では、ある作品の出版停止やアニメ中止と大騒ぎですね。ある国の作家がSNS上で隣国民をさげすむ発言をしたのが原因とか?」


 小池さん

「そうね、もしかしたらこれからの異世界における創作活動では《紀年法きねんぽう》がネックになってくるかもね。ま、あたしら”現実世界”にいる人間から見ればど~でもいいことなんだけど」


 秘書さん

「紀年法? 異世界で年を表すのに使われている『西暦』とか『平成』とか呼ばれている言葉のことですか? それがなぜ?」


 小池さん

「前話でも書いたけど、いちゃもんつけたいやからってのは、例えフィクションの作品であろうと、現実世界とのつながりを何かしら見つけて叩くのを生き甲斐にしているのよ。ヒーローが怪獣を倒す話であっても、『この動きは物理法則を無視している!』とか、スポーツモノでも『これは絶対反則! 一発退場だ!』って勝ち誇って騒いでいる奴らね」


 小池さん

「これをもっと拡大解釈したのが、異世界の中で使われている紀年や年号、元号を作品に登場させた場合ね。たとえばもし過去の年号を使って、主人公であるN国の軍人がC国の人間を、例え戦争とはいえ殺戮する描写を入れた場合


『同じ年号が使われているから、これは現実世界とつながりがある!』

『だからここに書かれているのは過去、未来にかかわらず、現実と同じだ!』

『つながりのある年号内で我が同胞を殺戮するとは何事だ! やっぱりN国民は我が国をないがしろにする野蛮国家だ!』


って、簡単にSNSで騒ぐことができるのよ。ま、”現実世界”にいる私たちにとってはど~でもいいことなんだけどね」


 秘書さん

「それがまかり通るのなら、『西暦○○年、人類は滅亡した』系のディストピアやSFが全滅してしまいますね。”誰が”人類、そして同胞を滅亡させたのかってのが必ず取り上げられますし、下手したら『将来の禍根を断つ』をお題目に、異民族排除の為の断種行動や肉体的浄化行動を唱える輩が現れるかもしれません。もっとも、唱えられた異世界の奴らは喜んで股を開くと思いますが。

ですが、それが宇宙人の場合、彼らはSNS上で宇宙人を非難するのでしょうかね? ……全く異世界人の考えることはよくわかりません」


 小池さん

「日曜日だというのに二回も投稿するなんてあたしもマメね。んじゃあたしも異世界に旅立たせてもらうわ。おやすみなさ~い」


 秘書さん

「それを現実逃避と言うんですよ! 溜まった案件が一つも片付いていないし! これじゃあ休日出勤した意味がありませんね」

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