2 弁財天 [七福神の紅一点ですよ。]

   つくってみよう、のぞいてみよう【作ってみよう、覗いてみよう】


「ほな、早速さっそくやってみよか」

 気を取り直したように先輩がいったので、仕方なく付き合うことに。

「こうやって、こうや。やってみ」


 先輩は簡単にいうが、実際やってみると結構難しい。

 指も腕の筋も痛いし、特に最後の、右手の親指を動かすのが地味にツラい。

「何やっとんねん。ここ、もっと奥入れんかい」


 横から身を乗り出してきた先輩が、僕の親指を掴み、無理矢理動かそうとしてくる。

「痛っ。止めて下さい。これ以上は無理です」

「我慢せい」

「先輩ってば、いつも強引ごういんなんだから……」


「ほら、出来たで」

 手元を見ると、確かにそれっぽい形になっている。

 十本の指が絡み合ってわくとなり、真ん中の空いた部分が窓ということか。

「で、これを顔に当て、『けしょうのものか ましょうのものか しょうたいをあらわせ』。そう三べん唱えて覗くんや。ほな、試しにあの子、見てみよか」


「あの子?」

 顔を上げ先輩の目線を辿たどると、いつの間にか、隣のベンチに人がいた。

 茶色いブレザーを着た女子高生だ。


「ちょっと、人がいるなら、いって下さいよ。恥ずかしい」

「いいから、見てみ」

 有無をいわさぬ先輩に、僕は渋々従った。


 窓の向こうの彼女は、口元を抑えうつむいている。

「別に普通の人間にしか見えませんよ。なんか、笑いをこらえてるように見えますが、あれ、僕らが笑われてるんじゃ」

「せやな。さっきこっち見とったし」

「自覚あるならやめて下さいよ、恥ずかしい」

「いーや。あの笑いは、そういうんとちゃう。進学校へ通う優等生な彼女には、おおやけには出来ひん秘密がある。その正体は――」


 先輩は勿体付けるように言葉を切り、キメ顔でいう。

「腐女子や」

 ――それ、アヤカシと違うから。正体隠して潜んでるかもだけど、違うから。

 僕は内心、そうツッコミを入れた。



   めがみこうりん【女神降臨】


「趣味嗜好は個人の自由だし、周りに迷惑かけなきゃ別にいいじゃないですか。ま、本当にそうかわかんないですが」

 小声でいうと、先輩は矢庭に口を開いた。

「サラス」


 するといきなり、もいわれぬ芳香と、きらびやかな装飾品、薄布だけをその身にまとった、ナイスバディな女神・弁財天が顕現けんげんした。

 相変わらず、目のやり場に困ってしまうセクシーなお姿で、いくら他人ヒトには見えないとはいえ、TPOくらいわきまえてもらいたい。


 彼女は女子高生の正面に回り、その手元を覗き込んだ。

 そこには、カバーのかかった本がある。


 しばらくそうしてから彼女は先輩を見返し、最高の笑顔とともにグッと親指を立てた。

「ほら、やっぱそうや」

 得意げに笑う先輩。

 ――って、アンタ、あの弁財天を、それだけのために呼んだんかい。

 僕は再び、ツッコミを入れた。

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