窓ノムコウ

一視信乃

1 狐の窓 [図が見たい方は、検索して下さい。]

   きつねのまど【狐の窓】


「なあ、『狐の窓』って知っとる?」

 小雨降る秋の昼下がり。

 ひとのない駅のホームで、一時間に二本しかない電車を待っていたとき、唐突に先輩がいった。


「何ですか、それ?」

 ベンチに並んで座るスーツ姿の先輩へ、ジーンズにパーカーの僕は尋ねる。

 先輩のが15センチくらい背が高いのに、座ると大差ないのがなんかムカつく。


「両手をこう組んでな――」

 先輩は手印しゅいんを結ぶように、両手の指を不思議な形にからめていった。

 すらっとしたキレイな指だと、どうでもいいことが脳裏をよぎる。


「マジナイ唱えて指と指の間から覗くと、人間社会に潜んどるアヤカシの正体がわかるねん」

 いくら霊能者の発言とはいえ、にわかには信じがたい話だ。

 そして何より、そうやって指の隙間からこちらを覗き見る先輩の姿が、非常にさんくさかった。



   つくりかたこうざ【作り方講座】


「まずこうやって、両手で狐サン作んねん」

 人差し指と小指を立て、残りの指を前にたおして、指先をくっ付ける。

 子供の頃にやった、影絵遊びのようだ。


「でな、こうやって、狐サンの鼻面付き合わせたあと、手首をひねって、右手は上向きに左手は下向きにして、水平になった人差し指と小指を、こう伸ばしたまま第一関節の当たりで重ね合わせんねん」

 いいながら、器用に手を動かす。


「で、親指と薬指、中指の先を離してな、薬指と中指は二本くっ付けて伸ばし、右手のは左手の人差し指の上に、左手のは右手の人差し指の下にやって、親指を、左手のは二本くっ付けた右手の指先の上に、右手のは左手の二本付けた指の下に入れるんや。どや、簡単やろ」

 先輩は得意気にそういうが――。


 僕は確信を込めていった。

「それ、誰にも正しく伝わってないと思いますよ。つーか、そんなごちゃごちゃしたヤツ、文字だけでわかるかっつうの」



   でんぱけい【電波系】


「お前、いきなり何ゆうとんねん」

 先輩が豆鉄砲くらった鳩みたいな顔で、僕を見つめてくる。

とか、なんやねんな」


「さあ? なんか急に、誰かの強い思念を受け取ったみたいで」

 僕には生まれ付き、そういう特殊な力があるから。


「せやな、お前、電波系やったもんな。なら、しゃあないか」

 ふんふんと納得する先輩。

「なんだよ。自分なんか、プレイボーイみたいな顔してチェリーボーイのクセに」


 思わずポロっと洩らしたら、両手で胸ぐらを掴まれた。

「なんやとっ。もっぺんゆうてみぃ」

「僕じゃないです。電波です。誰かの強い思念ですっ」

 お前かてチェリーやろ、なんてツッコミも忘れるほど先輩の怒りがマジっぽいので、僕は慌てて言い訳をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る