Zweites Kapitel  § Magical Girl §

Ⅲ魔法少女とドウジンシ―Null―

「まったくもう、いい大人が何やってるの。きらり結構がっかりだよ」


「ごめんな、それと荷物が届いたって教えてくれてありがとう。わざわざすまない」


 俺はキラリに絶対服従を誓い、身も心も奴隷となることを覚悟していたのだが、きらりはあっさり許してくれた。優しい。


「いや、それは別にいいんだけどさ、」


 きらりは何かを隠すように毛先をいじりながら横目で俺を見た。良く分からなかったので、俺は今回の経緯を話すことにした。


「さっき教室で一服してたら、あやめがな。あやめが校庭にある秘密の場所を教えてくれるというんだ。これは生徒だけが共有している何か秘密基地のようなものだと思って、つい付いて行ってしまって、ね。そのままのこのこと付いて行ったはいいが、そこでこのはちゃんの罠に見事引っ掛かってしまったんだよ。いやぁ、あれは見事な捕獲罠だった」


「はぁ」


 呆れられた。


「それにしてもこのはちゃんって、謎よね……」


「そうだな。不思議ちゃんだな。あやめは悪戯っ子で、きらりはしっかりさんだな」


「そうかもねー。でも、そっか。ふーん。あやめとは呼び捨てになるぐらい仲良くなったんだ」


 ああ、さっきからのその態度はそう言うことでしたか。ジェラシーですな。


「なんだ、焼きもちか? 俺はきらりのこともきらりってきちんと呼び捨てているぞ。それとも他の呼び方の方が良かったのか?」


「べつに。私はきらりでいいよ。ただ、いつの間に仲良くなったのかなぁって思って」


 それは勘違いだな、きらりさんよ。俺はあやめと仲良くなってなどいない。上手くやっているだけだ。実のところ、俺はこの親しげで優し気なクラスメイト達との接し方に戸惑っている。ここの人間は優しすぎる。不安は的中したのだ。その証拠に、放課直後に俺は葉巻に火を点けている。もしも仲良くやれているように見えるのであれば、それは欺くことに成功したと言えよう。


 俺は特別ではない。ここでは俺を取り巻いている状況なんていうのは道端の空き缶レベルの普遍的事象でしかない。だからこそ、俺は彼女たちとの関係には慎重にならねばならない。交友関係の距離を縮め、お互いの道に干渉することだけはしてはならない。俺は生徒であって、教師ではないのだ。多少知識が富栄養化しているだけの一般生徒だ。


 そう頭では理解していても、大学生と高校生という年齢の違い、すでに高校生活を過ごしたことのあるという既知、それに類するなにかが同級生としての日常を阻害している気がしてならなかった。


「同じ境遇同士、仲良くしないとな。おれとあやめはお互いきらり様に絶対服従を誓った身だ。もはや俺とあやめの運命は同一同価値。この危機を乗り越えるために仲良し子好しでやっていくぜ」


「もうっ。そういう意味じゃなくて。あと、その絶対服従はもう終わり!」

 ジェラシーマックスなきらり様に怒鳴られているのを掌でひらひら交わしながら可愛いなぁ、俺もこんな高校生活を送りたかった……あ、今送ってるじゃないかラッキーと一人でにやにやしていた。すると校舎の方から何やら声が聞こえてきた。校庭を挟んで声のする方を向くと、そこに一人の少女が槍投げをしている姿が見えた。


「くそったれがぁぁぁああ! こんちくしょう!」


 放たれた槍は校庭を縦断し、宙高いところで星屑のように消えた。


「……なんだ、あれ」


 続いて二投目。


「世の中をなめてるんじゃねぇぇえええ。世の中が私をなめてるんだぁぁあああ!」


「ずいぶんと辛辣だなぁ」


 二投目もきれいに放物線を描き、先ほど同じように重力に引っ張られ始めた頃にほうき星となって消えた。続けて三投目を「所詮は金かぁぁあああ」と叫びながら投げていた。


「あの子もここの生徒?」


「うん? 魔女かなんかじゃない?」


 ……魔女?


 またしても発せられた不可思議な単語に俺の反応は一回り遅れた。しかも存在することに驚いているのはやはり余所者の俺だけで、ここらでは日常らしい。


「ああ、たぶん魔女さんですね」


「魔法少女」


 魔女もいるのか、この学校は。


「ん? 今魔法少女と、言ったか? 魔女じゃなくて、魔法少女……。いや、確かに遠目で見れば身長が低いように見えるけど。少女と言えば、あれは魔法なのかもしれないが……」


 魔女と魔法少女って同じなのか? きらりとあやめは〝魔女〟と言ったが、不思議少女このはちゃんは〝魔法少女〟だという。


「違う。あの槍投げおんなじゃなくてそのむこう」


「向こう?」


 俺の揚げ足を取ったような大人げなあい発言は間違いではなかった。見れば校舎の奥の方から、これまた少女が走ってきたのである。確かにあの子は見た目年齢高校生以下の身長だ。しかも何かおかしな格好をしている。遠くてよく分からないが、とんがり帽子に裾の長い服を着ている。片手に本のような物を開いた状態で持っていて、ぶつぶつと呟きながら彼女なりの全力疾走だ。俺達が近づくにつれ、彼女の言葉が聞こえてきた。


「申命記第十八章九百十三節……主が賜る地にはいったならば……あなたがたのうちに……めた占いをする者、卜者、易者、魔法使、呪文を唱える者、口寄せ、かんなぎ、死人に問うことをする者があってはならない……主はすべてこれらの事をする者を憎まれるから……そしてこれらの憎むべき事のゆえにあなたの神、主は彼らをあなたの前から追い払われる……あなたの神、主の前にあなたは全き者でなければ……」


 やや距離があるせいで途切れ途切れにしか聞こえないが、どこかで聞いたことがある気がする。〝主〟ってことは聖書だろうか。そういえば欧米社会文化論という講義をとったことがあることを思いだす。まさか、あの少女は聖書を読み上げて魔法を使っているとでもいうのだろうか。


「なあ、俺たちもあの魔女とかと戦わないといけないのか?」


「ううん。魔女はあの子の担当だからね。私たちは何もしないし、したくてもできないよ」


 まあ、それもそうだろう。いくらこの世界が突飛であると言ってもそう簡単に人間が魔法を使えるはずがない。幻想が現実的だった産業革命前ならいざ知らずとも。


 結局この日はそのまま寮に向かうことになった。視界の片隅では魔法によるものと思われる花火のような爆発の閃光がちらついていた。




 ***




「こんなもんかな」


 俺は既に部屋の中へ運び込まれていた荷物の整理をしていた。入寮手続きを済ませた際に部屋の鍵は渡されている。嫌いに部屋の場所を教えて貰うだけだった。


 この寮には管理人や寮母という人物がいない。世話係がいない分自分たちでそのすべてをこなさなければいけないが、家賃は割安。責任者はこの近辺に住んでいる大人が担任しかおらず、先生が担っている。あと、先生は本名を決して明かさない。先生と呼ぶしかない。現世とこの歪な場所を繋いでいる数少ない人間だ。隠すべきことも多いのだろう。俺としては偽名でいいから名前ぐらい教えてほしいと思うのだが。


「ん? はい」


 叩扉こうひされた音に俺は返事をした。扉を開け雑然としている俺の新部屋に入ってきたのは、きらりとあやめ。男女で寮を分けていないというのも、俺の度肝を抜くには十分な材料だった。


「あ、ごめんね。まだ片付けしてたよね」


「いや、構わないさ。大体終わったところだ」


 俺は冷静に素っ気なく答えた。俺は冷静である。極めて冷静だ。現役女子高生の私服姿ごときに惑わされる俺ではない。冷静だ。努めて冷静だ。


「やっぱり、この部屋狭いね。諦くん、ごめんね。他に部屋がなくて」


「いや、十分だよ。ありがとう、きらり。それで、何の用だった?」


 アイムプラウドと書かれたティーシャツ一枚のあやめと、うさぎと虹の書かれたトレーナーのきらり。二人とも部屋の中でもスカートを着用する派であるらしく、学生服の半分ほど短さは危険と波乱がバンジョーしている。


「えっと、これなんだけど」


 極度に研ぎ澄まされた冷静さは一回転して汗ばみに変わりながらホチキス留の紙を受け取った。そこにはこの寮での基本的な諸注意、風呂の男女別時間割、食事や門限などの時間的事項。肩から上腕までをぴったりと寄せてきたきらりが指さして言うのは、三枚目の仕事についてだった。ポニーテールから香るこのフレグランスは柔軟剤?


「部屋の掃除、廊下の掃除は各自でってことになってるんだけど、共同で使うところはやる仕事を割り振ってるんだ。主に三つ。掃除、洗濯、炊事」


「きらりー、今どき炊事なんて言わないでしょ。料理よ、料理」


「……かくいうお前は何をしている」


「エロ本探し」


 でしょうね。そうでしょうね。人の部屋に来て早々ベッドの下に頭を突っ込む奴は大抵そうだ。ネズミ退治の業者を買って出てくれたわけではなかろう。特にお前みたいな常に優れた参謀並の策略を十数通りも考えていそうなバカならばなおさら。だがしかし。


「そんなところには隠していない。甘いな、ネズミ業者。俺はまだいくつか段ボールを処理し切れていない。ブツはその中だ」


 衣類、雑貨、書籍等はご覧の通り整頓済みであるが、持ち込んだパソコンとゲームは未設置である。インターネットは引いてあるとのことだったのだが、どうにも見当たらない。仕方なく、手を付けていなかったのである。


「あやめ、他人の物を勝手に弄らないの。ほんと、ごめんね」


 天使の笑みだった。よって俺は何でも許しちゃう。


「いいよ、あいつだって物を壊したりはしないだろう。ただ漁って眺めて俺をつつきたいだけだ。それよりも、きらり。俺はどの仕事を担当すればいい?」


「何かできそうなところはありそう?」


 少し困った顔でわずかに、普通であれば見逃してしまいそうなわずかな首の傾げ。俺はその健気さのためであればどんな仕事も請け負う覚悟になった。社畜精神の萌芽である。


「何でもできるぜ。一人暮らしの功だな」


「ホントに? お料理も!?」


「ああ、もちろんだ」


「その輝いている美しくも眩しい、さりとて儚げな君の瞳のためであれば、私は君の頬を美し染め上げ、さらに輝かせるための美味なる料理ディッシュを幾らでも提供して進ぜよう。我が腕の神髄なるまでの全力を振るって、この黒羽根諦が――」


「……かくいうお前はいつまで、何をやっている」

「え? なんのことですか?」


「俺の科白を勝手に捏造して付け加えるんじゃあない。やめろ。俺はいつからマッドサイエンティストになった」


「あ、あやめちゃん……」


「どっちかというとナルシスト系中二?」


「俺はどっちでもない。それとその手に持ってる俺のコレクションを元あった場所に戻せ。きらりが恥ずかしさのあまり手で顔を覆っているぞ」


「ごめんね、ごめん。大丈夫! うん、きらりもちゃんと見れるよ。ほら、大丈夫」

「いやいや、大丈夫じゃない。アール十八だぞ、あれ。テレビ放送時には全面モザイクだからな」


「そうだよね、私には、ちょっと、ごめんね。別に諦くんの趣味がどうとか、こうとかじゃなくて、そのやっぱ好き好きは人それぞれだからね」


 理解していただいて、助かります。それなのになぜ、きらりさんは目をウルウルさせているのですか。「信じていたのに……」みたいな反応は何でしょうか、きらりさん。


「それにしても嗜好が統一されてないなぁ。ロリが五冊、いや六冊……あ、まだあるって思ってたら美人巨乳お姉さんハーレムが出てきた。人間離れした超巨乳があったり、ああ、でも制服系は結構あるね。やはり女子高生は男の永久エターナルなのか……。寝取られは若干あるにしてもスカトロみたいなのはないな。ロリが多めの至って健全なノーマルってところですかね」


 人の性的趣向を鑑定しないでください。きらりさんはもう顔を真っ赤にしてますよ。耳を両手で塞ぎ小さく丸くなっています。



 俺はこれ以上俺の貴重なコレクションを悪魔の手によって荒らされるのを良しとせず、あやめの腹に容赦なく蹴りを入れた。痙攣しかけているところで手にしている物を回収。起き上がったところで刹那の猶予も与えずに蟹挟。蟹挟を言葉で説明するのであれば、それはスライディングしてその足で挟んでテイヤァァってやる技である。プロレスでなんて言うのかはしならないが、柔道では禁止技。



「きらり、もう大丈夫だ。君の目にとって有害なものは去った。というか片付けた。あやめもダウンさせたから暫くはイタズラが起きることもない。だから」



 やめてくれ、その涙目は違反だ。うるうるどころではない。泣き腫らした後の姿は無防備で、それこそ儚く見えるから卑怯だ。隠れた幼さに俺は勝てそうにない。



「その、悪かった」


「……うん」


「その、この部屋にはあり難いことにポットがあるみたいなんだ。俺、紅茶よく飲むんだけどさ、良かったら一緒に飲まない?」



 返事はない。



「……飲みませんか?」


「……うん」



 俺は手の平を上下にさせてそのまま待っているようにジェスチャー。俺が今なすべきことは、彼女の機嫌を取り持つため、落ち着いて頂くために身命を賭すこと。ダージリンばかり飲む乙女チック変態味覚が今日ばかりは役立ちそうだ。



「ちょっと、待っていてな。本当ならしっかりと蒸かしたいんだが、ポットのお湯だと温度管理が難しい」


 俺はささっと下の階にある洗面台でカップとティーポッドを洗い、部屋に戻って湯を沸かす。瞬間的に沸いたお湯をティーバッグへ。俺は一分半、きらりは二分半蒸らす。時間の差はミルクを入れるかどうかだ。


「お待たせ。インスタントで申し訳ないが、味は企業の保証つきだ」


 彼女は一口小さく飲み、それからおいしいと言った。


 この一言を聞けただけで俺は一安心である。そっと、俺はさっきの話を元に戻す。


「さっきは、その、ごめんな。落ち着いたかい?」


「うん。大丈夫。きらりの方こそごめんね。ちょっと過剰反応だった」


 まあ、それは別にいいんだけど。逆に今どきここまで純粋な反応をする娘がいてくれて俺は正直うれしい。淡泊で冷めた反応とか、とにかく拒絶していやな顔されるやつとか、無難に存在するのが笑顔を引きつらせながら「人それぞれ」という決まり文句で片づける女の子だ。その裏でどんなことを誰に言いふらしているのかと考えると、身震いする。特に俺の持っていたのは同人誌と呼ばれるやつで、写真集でもなく、アダルトビデオ等の映像類でもない。直接的に理解がしにくい分、想像が及ばなければ拒絶されるのは当たり前なのである。


 ちょっと恥ずかしい物を叩きあって笑えるのであれば、今後何があっても俺は関係が崩れることはないだろう。たとえ、素直で明るいきらりがここに来なければいけない理由を知ったとしても。


「そういえばさ、さっきの魔法少女の子いたよね、校庭に」


「うん」


「俺、挨拶したかな」


「ん?」


「いや、その校庭で見た魔女と戦っていたとんがり帽子被った子。未だ名前も顔も全員覚えられていなくてさ。挨拶したかなぁって。それと、あの子って本当に魔法が使えるの?」


「ああ、いちかちゃん? うん、今日諦と自己紹介しているときにいたよ。挨拶もしてたと思う」


「えっと……どんな子だっけ?」


「サイドテールの、ほら白いシュシュで左の方を結んだ」


「えっと……」


 髪型は最も分かりやすい特徴なのに俺はよく覚えていなかった。いや、注意してみていなかったんだな。少なくとも第一話にはそのような描写はない。


「もうっ。私のこれはポニーテールね」


「ああ、それはわかる」


 俺がよく萌えるやつだ。


「これが……こんな感じなのがサイドテール。私の髪留めは黒と赤の飾りだけど、一華は白いシュシュだったの!」


「……もしかして、あの極端に緊張していたシャイガールかな……」


「もうっ。ホント、そういうところしか見てないのね。どうせ、私とかも元気がよくてうるさいとかでしょ!!」


 俺は頷きながら、数時間前の教室でのことを回想していた。


「いちか……あの、おとなしい子か。そうか、彼女は魔法が使えるのか。すると、俺も頑張れば、使えるのかな」


「ん……? 頑張らなくてもできると思うよ」


 え? 魔法が使える? やはりこの世界は誰でも魔法を使うことができる世界なのか。もしかしてあの学校は、とある高校は魔法学校?


「購買に売ってるんだよ。えっと、あれは幾らだったかな……」


「購買に!? 魔法を?」



 てにをはがおかしくなった。だが許してくれ。購買で魔法が買えると聞いて驚かないはずがないだろう。なぜならば、お金払って魔法を買う。この不釣り合いな言葉の組み合わせに感じた違和感をうまく呑み込めない時点で、俺は普通の人間だと自覚できるのだから。異常を超次元に放り込んで語られる宇宙理論のように、俺には聞こえた。



「うん。五百円ぐらいだったかな……。誰でも使えるのはすごく安くて、飲むだけで魔法が使えるインスタントなやつ。高いのは高いよー。使いこなせないことが多い」


「使いこなせないとどうなるんだ?」


「失敗したとき? そうだな……爆発するか、あとはなにも起こらない! 理科の実験みたいなもんだよ」



 理科の実験って……。科学的なのか幻想的なのか分からんな。



「そうか。分かった、ありがとう」


「いいえ、どういたしまして」


「夕飯は七時に下へ行けばよかったんだよな?」


「うん、そうだよ」


「了解。じゃあ、後でな」


「うん。紅茶ごちそうさま」



 きらりはカップを置いて俺に手を振り、そして部屋を出た。



 俺はなぜ彼女が、いちかが魔法で戦っているのかを尋ねはしなかった。素朴な疑問ではあるが、きっとそれが核心だからだ。例え相手が魔女であったとしても、わざわざ相手の得意分野で勝負を挑む必要はない。俺にはどうにもただ悪意のある敵を倒すことだけが目的ではないように思え、きっとそれが抱え込んでいる事情の一つに通じているのでは、と推測している。もしそうであれば、俺はそこに触れてはいけない。他人のココロに土足で踏み込んでいくのはこの特殊な環境で生きていく状況では最も避けるべきだ。



 俺は改めて戒める。



 俺のすべきことは高校生としての本分を全うし、失った単位を取り戻すこと。問題解決の探偵ごっこはしないし、正義の味方になって勧善懲悪の遂行もなし。残り三十一か月を普通の高校生として身分相応に過ごすのだ。そうだな、たとえば購買に〝魔法〟とか珍しいものがあれば、取りあえず手を出すような子供を残しておくとか、だな。



 先ほどのカップを簡易机の上に置き、段ボールから荒らされた同人誌の残りを元に戻す。きらりから受け取った紙にもう一度目を通して、それでようやくネット回線を見つけた。ベッドと電灯、持ち込んだ折り畳みの机とハンガーのないクローゼットの部屋にテレビを設置する。最新のゲーム機を据え、残りの荷物を片付け始めた。




 廊下の外ではきらりの声がした。どうやらクラスの三分の一がヒットした居残り組の凱旋らしい。それからまばらに扉を閉める音が聞こえた。個々に与えられた部屋の中でそれぞれ何を思うのか。閉ざされた扉は開くまで開かない。

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