第5話 佐藤大輔の話

僕もいまでは顔の面が厚くなりましたが、初めの頃は小者ですので、常にビクビクしておりました。僕はそれ程社交的ではありませんから。そして失敗はたくさんやらかしてまいりました。ヤンボーマンボーのように小さなことから、大きなことまで、色々です。現在もそれは続いております、残念ながら。

小さなことはまぁ、どんまいですが、辛くて自分があの日、出勤じゃなければよかったと、思った大きなこともございます。

あまり思い出したくないのですが、一つだけ、お話させていただきます。ある日のこと、何やらコーヒーの良い香りが図書館に充満してきました。おや、と思い、カウンターのペアの方に、

「ちょっと様子を見てまいります。」と申し上げ、閲覧コーナーに行ってみると、水筒からコップにホットコーヒーを注がれている方が…。昨今、本屋さんでも買う前の本を、併設されている喫茶コーナーで読めるお店もございますので、お客様はお気になさらなかったのだと思います。しかしながら、当館では図書スペースでは飲食をご遠慮いただいており、エレベーターホールの自販機わきのベンチでのみで、ご飲食をお願いしております。飲食厳禁の貼り紙もさせていただいております。そこで、お客様にその旨をお話させていただいたところ、「今日は図書館で本を読みながら、コーヒーを飲むのを楽しみにしていたのに、なぜ飲んではいけないんだ。」

とご立腹されました。マニュアル通り申し上げましたが、僕は自分では対応しきれないと思い、すぐにヘルプを頼みました。今なら、もう少し自分で対処させていただくでしょうが、入社したてで、自分の対応に自信がありませんでしたから。ただ、そのまま、見過ごしてしまうと、他のお客様に支障がと思いましたので。副館長がすぐまいりましたが、お客様の怒りはエスカレートする一方で、しまいには怒ったまま帰られてしまいました。本当に、どうしたらよかったのか、今だに考え中でございます。

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