第2話 佐藤大輔の話
「雑誌、2部置いてくれないかな?」朝一のご意見。うちの図書館は、9時に開館。が、朝一は新聞や雑誌が大人気。お客様の顔ぶれはだいたいきまっております。通常は皆さま仲良くお読みいただいておりますが、なかにはいつもいらっしゃらないお客様も、もちろんお越しいただけます。ありがたいことです。しかしながら、オープン前からお客様方が並んでいらっしゃるため、9時にいらしても、目的のものは既に別の方がお持ちになり、お読みいただいているようです。
お客様曰く、
「今日は毎週楽しみにしている発行日なんだよ。どこの図書館行っても、いつも誰かが読み始めちゃってて、なかなか読めないんだよ。2部おいてくれないかな?」
お気持ち、お察しいたします。朝早くからせっかくお越しいただいたにもかかわらず、楽しみにされていたものをすぐにお読みいただけず、申し訳なく思います。しかしながら、うちの市内の図書館は、各館、新聞や雑誌は1部づつと、統一されております。そのため、心苦しいのですが、2部購入は難しいかと思われます。私が謝ったところで、何の足しにもなりませんが、
「申し訳ございません。」と深々と頭をさげ、ご意見をうかがわせていただくだけでございます。お客様はしばしお待ちになり、次に雑誌を手にすることができ、ゆっくりお読みいただけ、僕もホッとしました。よかったです。
そして、思い出しました。以前勤務していた図書館では、とあるお客様がご自身が新聞を、どなたかが既に読んでいらっしゃるため、そのお客様から借りてきて欲しいと頼まれたことがありました。もちろん、残念ながら、お読みいただいているものを、私共から借用させていただくことは難しいと思われますので、
「申し訳ございませんが、新聞がもどるまで、いましばらくお待ち願います。」とお話させていただきました。それでもご納得いただけなくて、僕ではなく館長をお呼びになり、交渉されていました。館長は一所懸命お話をうかがってくださいましたが、やはりお待ちいただけますかとお話しておりました。そのうち、読んでいた方がみかねて、
「はい。」と新聞を僕に渡してくださいましたので(心優しい方でした!)、お待ちいただいていたお客様にご要望いただいていた新聞をお渡ししました。事がクレームにならず、よかった事例でした。
こんな時に、僕はいつも考えるのです。どうしたら、お客様にご納得いただけるベストな対話ができるのかと。接遇は本当に難しいと、常に思います。
申し遅れましたが、僕は、現在二十八歳、独身、佐藤大輔と申します。本が好きで、図書館司書になりたくて、公務員試験を受け続けておりますが、実力が足りず、落ち続けています。残念ながら。もちろん希望は捨てておりませんが、受かるまで勉強だけをし続けるわけもいかず、図書館の臨時職員をさせていただいております。図書館の空間、本当に幸せです。皆様のお越しを心よりお待ちしております。
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