「分かるけどさー! 別にすぐ結婚しなくてもいいじゃん! あてつけかっての!!」

 私はネームが描かれたコピー用紙をぐしゃぐしゃに丸めて真理へ投げつけた。

「まぁしょうがないじゃん。夕子もかなり悩んでたよ」

「何でそんな事わかるのよー」

「だって私のところに相談にきたもん」


 は?えっと、聞いてませんがそんなこと。


「当たり前でしょ。言うわけないじゃんフツー」


 いや、まぁそうなんですけどね。なんか腑に落ちないというか、私がフラれてから真理は全然慰めてくれなかったじゃん。


「いや、別にいいかなーって」

「このクソ女アアアアアアアアア!!」


 ベッドというリングの上で見事に決まったパロスペシャル。

 真理選手は苦悶の表情を浮かべてタオルを促している!


「いたたたたたた! ストップストップ! 夕子だってあんたの事好きに決まってんじゃん。でもやっぱり事情があるんだよ。親とか世間体とかさ。あそこの家あほみたいに厳しいじゃん。分かれよバカ美咲。万年ヘボ漫画家!」


 たしかに夕子の家はちょっとした伝統のある家で、伝統があるからこそこういう問題には厳しく閉鎖的なのは良く聞く話だ。


「まぁ。美咲だったら分かってくれると思ったんじゃない?恋愛は全部が当人達の良い方向に進む事なんて無いんだよ。それを分かってるから美咲は夕子と別れても仲良く出来たんでしょ?」


 私は俯いたままだった。やり直せるチャンスがあるかもしれないと期待してなかった訳ではない。一度抱いた恋愛感情を全て無くす事は不可能だった。けれども殆ど無理というのも頭の中では理解していたし、それでも夕子とは友達でありたいと、自分の心を誤魔化して何とか今までやってきた。


「じゃあ夕子は今まで私の気持ちを知っておきながら甘えていたってこと? それってなんかずるくない?」

「そりゃあずるいよ。夕子はそういうやつだもん。嫌いになった?」

「好きとか嫌いとかそういう問題じゃなくて、こう人間的にずるいっていうか……」

「じゃあ離れればいいじゃん。ラインもツイッターも全部ブロック!」

「それは露骨で嫌だし極論過ぎる」

「結局はどうも出来ないんだよ。美咲も我慢しているけど夕子も我慢しているの。こんなことされても夕子の事嫌いになれないんでしょ?」


 私は黙ってうなずいた。

 全くもってその通りでございます。


 

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